定量限界
定量限界、検出限界という言葉を最近よくきくようになりました。定量限界は測定誤差の10倍、検出限界は測定誤差の3倍ですが、この違いをイメージするのは初めての人には難しいと思います。
食品や体の放射線の測定をするときは、空間放射線などのバックグランドの上に、汚染からくるカウント数の増加があります。汚染が0の食品であっても、誤差=バックグラウンドのふらつきが有りますから、測定数ー期待されるバックグラウンドは、誤差程度の幅をもってふらつきます。ここで誤差が5(単位はなんでもいいとします)であるときに、汚染のない食品を1600個測定したとします。このときの分布を計算機でシミュレーションすると図の上のようになります。今市場にある食品の大半は汚染が少ないものが多いので、食品を測定すると、こんな感じになるでしょう。
たくさん測定すれば汚染されているものも混ざっているでしょう。測定の目的は汚染されたものを見つけることのはずです。1600 個の食品のうち100個が15程度の汚染があるとします。この時この 1600 個の食品を測定すると中段の図の点線のようになります。このうち汚染された食品の分布は実線でかいてあります。全体の分布をみると一つ前の分布のように0をはさんで対称ではなくて、右側にあきらかに汚染品が固まっているのが分かると思います。ただ、測定値が10 だった時に、汚染されているか汚染されていないか、と聞かれると確率 1/2くらいで、どちらとも断言できない状態です。測定値が15であれば汚染が0ということはほとんどない、ということもわかります。つまり検出限界というのは、このくらい大きければまず汚染0ということはないね、という値という考えかたができます。
汚染が15 あるからといって、測定値は必ず15というわけではありません。定量限界程度汚染されている食品の測定値の分布は0近くから30までの間にばらついています。つまり測定値から、汚染量を推定しようとしても倍以上のばらつきがでてしまうということになります。量を定める「定量」できていないのです。
次にカウント数の増分が0以下になった部分に目を向けてみましょう。0以下になった部分は、汚染された食品がない場合とあまり変わらないことがわかると思います。正にずれたものの分布には汚染されたものの影響が入りますが、負にずれた分にはそれ影響が少ない、つまり測定誤差を評価する上で重要になるのは、負にずれた部分の分布ということになります。(放射線測定器にはバックグラウンドよりカウント数が下にずれた場合の値を出さないものが多いようですが、誤差を評価する大事な情報を捨ててしまっていると思います。)
最後に同じ測定にたいしてよい測定器を導入して誤差が 1.5 になるようにしたとします。この測定器で同じサンプルを測定したものが一番下の図になります。汚染されていないサンプルと汚染されているサンプルがきちんと分かれて、重なりがない状態になっています。そして値が +/- 5 の間に総てのサンプルが分布しています。これが定量できている状態です。
数字の変化を追いたい場合は、最低限計りたい値に定量限界が達成されている必要があります。食品を測る時は、余裕をみて食べないという方法も取れますが、人間の内部汚染を測った結果か高かったからといって捨てるわけではありません。時間をおいて定量して差をみていくということが重要になります。例えば20Bq/Kg 以下を目指すのであればホールボディーカウンターの定量限界として、大人で ~1000 Bq 程度、つまり誤差で~100 Bq、検出限界として =300 Bq 程度の測定器が望ましいということになります。(もちろんこの値は目標設定が変われば変わりますが、この定量限界を満たさないホールボディカウンターが使われてる状態であるのは間違いないようです。
このほかに民間の測定機関が提供する検査に前回のエントリーで振れた尿検査があるようですが、ホールボディカウンターで定量できる人体あたり1000 Bq の汚染にたいして、尿に出ると期待されるセシウムの量は一日あたり 10 Bq 程度。一日の尿量を1L とすると 定量限界で10Bq/L 前後が対応するようです。ただ内部被曝と尿中のセシウム量の関係そのものに大きな幅があり http://rpd.oxfordjournals.org/content/64/4/313.full.pdf 内部被曝を推定する手段として疑問の多い方法だといえるのではないでしょうか。

追記
ちょうど早野先生がこのブログの内容と関連するデータをあげていたので、追記します。福島市の WBC のデータなのですが、上のヒストグラムをみると0の人が40人いて、それ以外にたくさん検出しているという印象をもつ方が多いと思います。このヒストグラムでは人がWBCにのっている時のカウント数からバックグラウンドを引いて0になったものがすべて0に纏められています。実際のカウント数は下の図で、この40人は「負の増分」のデータであったことがわかります。この負の部分は統計誤差を評価する実データとなります。実線は負のデータから正規分布を仮定したときの測定値の広がり=「分散」を評価したもので2例をのぞいて、内部被曝0と考えることもできるデータだということがわかります。(ただし、中央に分布しているものの平均は若干0より多いと考えられます)検出限界はバックグラウンドによって変わるもので「カタログ値」としてバックグラウンドが書かれている場合はどういう環境で実現できるか確認する必要があるでしょう。

食品や体の放射線の測定をするときは、空間放射線などのバックグランドの上に、汚染からくるカウント数の増加があります。汚染が0の食品であっても、誤差=バックグラウンドのふらつきが有りますから、測定数ー期待されるバックグラウンドは、誤差程度の幅をもってふらつきます。ここで誤差が5(単位はなんでもいいとします)であるときに、汚染のない食品を1600個測定したとします。このときの分布を計算機でシミュレーションすると図の上のようになります。今市場にある食品の大半は汚染が少ないものが多いので、食品を測定すると、こんな感じになるでしょう。
たくさん測定すれば汚染されているものも混ざっているでしょう。測定の目的は汚染されたものを見つけることのはずです。1600 個の食品のうち100個が15程度の汚染があるとします。この時この 1600 個の食品を測定すると中段の図の点線のようになります。このうち汚染された食品の分布は実線でかいてあります。全体の分布をみると一つ前の分布のように0をはさんで対称ではなくて、右側にあきらかに汚染品が固まっているのが分かると思います。ただ、測定値が10 だった時に、汚染されているか汚染されていないか、と聞かれると確率 1/2くらいで、どちらとも断言できない状態です。測定値が15であれば汚染が0ということはほとんどない、ということもわかります。つまり検出限界というのは、このくらい大きければまず汚染0ということはないね、という値という考えかたができます。
汚染が15 あるからといって、測定値は必ず15というわけではありません。定量限界程度汚染されている食品の測定値の分布は0近くから30までの間にばらついています。つまり測定値から、汚染量を推定しようとしても倍以上のばらつきがでてしまうということになります。量を定める「定量」できていないのです。
次にカウント数の増分が0以下になった部分に目を向けてみましょう。0以下になった部分は、汚染された食品がない場合とあまり変わらないことがわかると思います。正にずれたものの分布には汚染されたものの影響が入りますが、負にずれた分にはそれ影響が少ない、つまり測定誤差を評価する上で重要になるのは、負にずれた部分の分布ということになります。(放射線測定器にはバックグラウンドよりカウント数が下にずれた場合の値を出さないものが多いようですが、誤差を評価する大事な情報を捨ててしまっていると思います。)
最後に同じ測定にたいしてよい測定器を導入して誤差が 1.5 になるようにしたとします。この測定器で同じサンプルを測定したものが一番下の図になります。汚染されていないサンプルと汚染されているサンプルがきちんと分かれて、重なりがない状態になっています。そして値が +/- 5 の間に総てのサンプルが分布しています。これが定量できている状態です。
数字の変化を追いたい場合は、最低限計りたい値に定量限界が達成されている必要があります。食品を測る時は、余裕をみて食べないという方法も取れますが、人間の内部汚染を測った結果か高かったからといって捨てるわけではありません。時間をおいて定量して差をみていくということが重要になります。例えば20Bq/Kg 以下を目指すのであればホールボディーカウンターの定量限界として、大人で ~1000 Bq 程度、つまり誤差で~100 Bq、検出限界として =300 Bq 程度の測定器が望ましいということになります。(もちろんこの値は目標設定が変われば変わりますが、この定量限界を満たさないホールボディカウンターが使われてる状態であるのは間違いないようです。
このほかに民間の測定機関が提供する検査に前回のエントリーで振れた尿検査があるようですが、ホールボディカウンターで定量できる人体あたり1000 Bq の汚染にたいして、尿に出ると期待されるセシウムの量は一日あたり 10 Bq 程度。一日の尿量を1L とすると 定量限界で10Bq/L 前後が対応するようです。ただ内部被曝と尿中のセシウム量の関係そのものに大きな幅があり http://rpd.oxfordjournals.org/content/64/4/313.full.pdf 内部被曝を推定する手段として疑問の多い方法だといえるのではないでしょうか。

追記
ちょうど早野先生がこのブログの内容と関連するデータをあげていたので、追記します。福島市の WBC のデータなのですが、上のヒストグラムをみると0の人が40人いて、それ以外にたくさん検出しているという印象をもつ方が多いと思います。このヒストグラムでは人がWBCにのっている時のカウント数からバックグラウンドを引いて0になったものがすべて0に纏められています。実際のカウント数は下の図で、この40人は「負の増分」のデータであったことがわかります。この負の部分は統計誤差を評価する実データとなります。実線は負のデータから正規分布を仮定したときの測定値の広がり=「分散」を評価したもので2例をのぞいて、内部被曝0と考えることもできるデータだということがわかります。(ただし、中央に分布しているものの平均は若干0より多いと考えられます)検出限界はバックグラウンドによって変わるもので「カタログ値」としてバックグラウンドが書かれている場合はどういう環境で実現できるか確認する必要があるでしょう。

by mihoko_nojiri
| 2011-12-03 22:01
| 物理