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油断するなここは戦場だ

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ホールボディカウンターは必要か

Twitter から早野、糸井本についていろいろRT されてくるのだが,ホールボディカウンターについての
最近のあれこれについては,あまり良い印象をもっていないので,やや複雑な気持ちでいる。以下に書く事は、すでに何度もツイートしたことだが,今一度まとめて書いておく。

ホールボディカウンター(WBC)は人間に体の中に蓄積されているセシウムなどの放射性物質を計るための装置で,かなり高価な機具だ。震災直後の2011年の中頃には,twitter を経由して,あり得ないくらい大きい誤差と高い中心値をもつ体内のセシウムの測定結果が twitter を経由して持ち込まれてきて,その意味合いについて深刻な相談メールで受ける事が何度もあった。初期の測定が正しくないことは,体内に存在するカリウムの自然放射能が正しく測れていないことから,すぐにわかった。当時は空間線量が高く、これが測定にかぶったこと,またそのような状況に対応していないソフトしか持たない古いWBCが多かったことに起因した問題だった。

その年12月に,福島の市民測定所にあるATOMTEX の椅子型のWBC が,体内カリウムの自然放射能がきちんと測れるときいて,早野氏と見学にいったが,この装置も,高い環境からのバックグラウンドに耐える校正がされていないことがわかった。これは,校正用のファントムが同時に購入されなかったという,アクシデントによるもので,測定器のせいではなかった。ATOMTEX のの内部ソフトは,「なるべくシンプルな装置で,健康に影響のあるレベルの放射線量を測定しよう」という工夫が随所に感じられて,私はだんだん,この装置が好きになった。市民測定所の人の話では「価格は400万円くらいだが,個人が買って市民測定所に寄付されて,どう扱えばいいかむずかして困っている」ということで,えー何それ景気いいな,と驚いたが、当時は原発災害に対する危機意識が高く、こういう「緊急の決断」をした人はたくさんいた。

ATOMTEX のWBC は成人の体内に1000Bq/body くらいの放射性セシウムががあれば確実に計ることができる。1000Bq/body は内部被曝の量にして0.1mSv body/年 で,自然放射能による内部被曝をはるかに下回っている。自然放射能よりもはるかに低いレベルの放射性セシウムを測定する意義はそもそも薄い。成人で1000Bq/Body のセシウム内部被曝がはかれれば公衆衛生上は十分で,1mSv/body/年 に対応する2万bq/body 近くなれば,あるいは保険指導を行う必要もあるだろう。もしも,多くの人が多数の内部被曝をしているのであれば,低価格な装置を広く普及させることが重要で,このベラルーシの椅子型WBC も十分に意義がある。

一方で日本の現状は,ほぼすべての方がこの椅子型では測定できない程度に低い内部被曝しかしていない。しかし,椅子型WBC よりもさらに微小な内部被曝を測定できるキャンベラ製のFASTSCAN という高価なWBCが福島県内に多数購入され,あちこちで運用された。当時は誤差以下の中心値でもすごく心配する方はたくさんいて,高精度の装置のほうが結局めんどうがないということもあったのだろうと思う。装置は一台数千万円かかるが,現在では福島県内で,30台以上の FASTSCAN が運用されているはずである。かならずしも有益なお金の使い方とは言えないが,1000Bq/body 程度でも健康に影響すると主張する団体もあり,実際の内部被曝がそれ以下であることで安心できるなら利点もあるかもしれないと特に気にとめてはいなかった。

内部被曝測定を行っている医療機関に風向きがおかしいところがあると感じ始めたはの 2013年になってからである。この時期は福島県に在住しているほとんどの人の内部被曝が低いことが明らかになっていて,段階的にWBCによる検査が縮小できそうな時期であった。もちろん,一部には内部被曝が年間1mSvを越える人の報告もあったが(主に山菜や野生動物をたべたい年配の人である),健康上大きな問題が生じる理由がない以上、それに干渉する必要はない。流通食品の放射性物質の量は低く、普通に生活している人が健康影響をうける可能性は全くみられなかった。震災直後に多くの医療機関で内部被曝の測定をはじめたが,内部被曝検査は病院の活動から切り離して,より緊急性の高い地域医療の問題に集中するべき時期がきていたのである。仮設にすんでいるお年寄りの健康状態や,震災でより加速した高齢化、医師不足,看護師不足など,人間の生命に直結する緊急の課題は多数指摘されていた。実際、医療と内部被曝測定の分離が行われたところはあって,たとえばいわき市の磐城共立病院では震災直後からFastscan を市から貸与されて測定を行っていたが,現在装置は移設されて保健センターで運用されている。

一方で健康に全く問題のないレベルの放射能しかが検出されていない場合でも,医師の指導による個人への介入が行われる状態が,少なくともいくつかの医療機関では続いている。私のTL によくRT されてくる坪倉氏のアピタルへの寄稿

(例えば、
《57》 検出限界を考えない運用だった - 内部被曝通信 - アピタル(医療・健康)
《41》 糖尿病治療に似る被曝の診療 - 内部被曝通信 - アピタル(医療・健康)
《96》 個人の問題とコミュニティー全体の問題 - 内部被曝通信 - アピタル(医療・健康)


をみると,ひらた中央病院や,南相馬総合病院では 20Bq/Kg で積極的な介入が行われており,かつこの介入レベルで再診におとずれなくなる人がいることを,保健指導に協力的でない糖尿病予備群の問題と同等であるかのように語っている。

このアピタルの記事は論旨が随所に飛躍していていて,ご本人の意図するところがつかみにくい。しかし,糖尿病などの生活習慣病は悪化すれば重篤な結果を引き起こす病気であるために,指導が必要なので, 微小な内部被曝と比較することは妥当だと思わない。また,いわき市の常磐病院の報告をみても,検出限界ぎりぎりの例に対して、再検査を行う運用を行っているようである。流通食品の放射能が低く抑えられて内部被曝が増える恐れがないにもかかわらず,これらの医療機関のホームページや,その関係者が,今後も測定を続けることが重要と結論づけていることに,違和感を覚えている。(最近の坪倉医師監修のパンフレットにもそのような記述がある。)

BABYSCAN については,ひらた中央病院とこれによって設立された震災復興支援放射能対策研究所の要望によって開発することが2013年4月に発表され,早野氏のTL で怒濤のような関連ツイートが始まった。幼児は体が小さいことから,FASTSCAN ではセシウムの測定は難しい。しかし本来、幼児が親と違う食品をたべることはまれで,同じ家庭の大人を計っていれば家族的な内部被曝は把握することができる。測定の必要はないが親の要望が高いから計りたい,という趣旨だと早野氏は説明された。

このBABYSCAN の納入時の記者会見の後に、設置に関わる金銭負担について早野氏に質問した。すると彼が「震災復興支援放射能対策研究所は月に1000万円以上の赤字と記者会見でいっていた」とさらっとツイートしたので,総毛だつような気持ちになった。しばらくしてある雑誌記事でもひらた中央病院の理事長の発言として,研究所に6億程度の経費がかかってると紹介された。この研究所にある,FASTSCAN とBabyscan の購入設置だけで2億程度はかかっていると考えられ、(南相馬のBABYSCAN は購入設置に2億かかったと新聞報道がある)2012年から2万人程度の人を測定して,一人あたり数万円の経費がかかっている計算になる。このような体質は,研究所本体の継続性や,関係する医療機関や介護施設の運営に影響を与えかねないと危惧している。

なお,この研究所はエコーならびに6種類の血液検査とヨウ素濃度の測定を含む甲状腺の無料検査も行っている。(これは福島県の甲状腺検査で,エコーによるスクリーニング検査で再検査となった人に行う検査と同じ内容である)これらの検査にかかる費用は,一人あたり1万円程度で,検査実施数に比例したコストがかかる。前段に述べたように毎月多額の支出超過があるのであれば,6つのマーカー全ての検査をしなくてもいいのではないかという疑問を持った。(例えば、甲状腺専門病院である野口病院のホームページには甲状腺スクリーニング検査の解説にマーカーの最小単位として,free T4 とTSH の2つをあげているので,県と肩をはらなければ,一人あたりの費用は低下する)研究所は甲状腺検査結果を研究報告も行っているため,6つのマーカーは研究目的で取られたと考えることもできる。しかし,成人女性の甲状腺疾患は頻度が高く,原発の影響をはかる研究対象として妥当なものとも思えなかった。この研究報告については,いろいろ雑な面がみられるのだが,この記事はもうかなり長くなったのでまた別の機会にしたい。ともかくいろいろ謎なのである。

病院、医師、看護師の社会的責務は医療であり,放射線による内部被曝のリスクは,それらに比べて低い。(実は多くのところでは,追加の外部被曝のリスクに比べても低い)上に指摘したような医療機関の現状は,震災初期に放射能対策をはじめた医療機関が「緊急時の決断」の継続性を重視して活動していることを示している。一方で内部被曝のレベルは,当初危惧されたレベルとくらべて遥かに低い。内部被曝測定の労力やコストに対するアウトプット(たとえばBABYSCAN の時に強調される”お母さん”の安心とか)と同時に,その同じ資金が他のプロジェクトに使われた場合に何ができたかを比較して,放射能対策が相対的なリスクをふまえて妥当な範囲にとどまっているかを見直す必要があるだろう。

私がここで述べた意見と,現場の医師の認識はおそらく違っていて、検査を受ける人達への説明にも医療機関の意向反映されているだろう。内部被曝が心配な人が測定を受けるのは良いことだと思うが,通知が来たからいくという人も多いはずだ。子供に検査を受けさせる為には,仕事をもっていれば,仕事を休んで連れて行く必要があるし,子供をつれて病院にいけば,別の病気を拾う可能性もある。「野草や,猪を食べなければ,わざわざはかりにくる必要はないですよ」と言ってくれる人がいてもいいのではないかと思うのだが,どの病院のホームページにいっても,健康のために測定を,と書いてある。一旦構築された検査体制は,実際に不要かどうかではなく,現場の人達が不要と思うまで続けられるのだろう。

蛇足になるが,WBC検診車は今年も福島から避難している人に対して派遣されていて,放射能の影響の全くない県に住んでいる人でもWBCを受けることができる。もちろん、何も検出されるはずがないのだが,福島県のホームページをみても「うけなくていい検査」とはかいていない。これも似たような問題だ。

内部被曝の影響が低いにも関わらず、BABYSCANが 三台もが福島県内に設置されたのは,本当にいいことなのだろうか?ネットの意見は無料検査に対して優しい。援助が必要な人の負担は少ないように見えるからだ。しかし,実際にはすべての検査に人的、金銭的なコストがかかっていて,それは誰かに負担されている。その影響が可視化されていないことがとても不安だ。

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by mihoko_nojiri | 2014-10-12 23:31 | 社会

日本学術会議の連携会員になりました

日本学術会議の連携会員になりました.(第23期,第三部,物理学)

前政権の時に総合科学技術会議の基本政策調査会にいたことがありますが,
それ以来の久しぶりの公職です。

6年ほど前に推薦してもいいがどうかというお話があったのですが,
そのときは、差し障りがあってお断りしたように記憶しています。この6年の間に震災
があり,個人的にはいろいろやったのですが,連携会員であれば,より広い方
からのお話が伺えたかな、と思ったりします。

今後ともよろしくお願いします。
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by mihoko_nojiri | 2014-10-07 11:12 | 物理

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