油断するなここは戦場だ

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聞けなかった質問

12/17 は科学未来館で開かれた未来設計会議 [3]

after 3.11 エネルギー・科学・情報の民主的な選択に向かって
第2回「科学者に言いたいこと、ないですか?」

という集まりにいってきた。パネリストは、東大の早野氏 (@hayano) 、中島氏、防災の長坂氏、大阪大学の平川氏 (@hirakawah ) である。


この会議の内容については 後日YouTube にも出たので(ここ)、細かいことは繰り返さない。聞いているだけのつもりだったが、我慢できず質問をしようと手を挙げ、当てていただけなかったので、その質問をここに書こうと思う。

質疑応答のなかで、学会等が組織として科学的な情報発信ができる体制を、という内容の話が平川氏からあった。今回、学会や、学術会議の動きが目立たなかった、国の情報発信がお粗末だった。この状況を改善するにはたしかに専任の科学スタッフが重要であろう。一方で、「個人としての情報発信は重荷」または「弊害がある」という趣旨で、何度か平川氏や中島氏が発言されたことについては、異論がある。

私の考えでは平川氏が強調された「システム」の中にそれを構成する「個人プレーヤー」をサポートする風土が必要である。今回の原子力災害のような「定説のない状況」において、組織はしばしば動きを止めて、合意形成の時間をとろうとする。つまり、想定外の事態において短時間で何かを発信するためには個人プレーヤーが必要なのだ。

たとえばspeediである。 シミュレーションが公開されず、また研究者個人としての発表を抑制するような声明がなされた。中島氏はこれについて情報の混乱を避けるという観点から妥当だという意見をおもちだった。しかし、ネットで簡単にみれる外国のシミュレーションに対して、対応するものが国内から提供されず、解説をする研究者もいない状況が長く続いた時に、そのことが国民にどういう印象を与えたか、海外に対して日本がどういう国であるという印象を与えたか、そのことに対する総括はなかったように思う。科学的成果はたしかに長期的な研究が必要である。一方で、情報を必要としている人たちを前にして、真摯な発信を行わなずして、どのようにして科学に対する長期的なサポートが得られるのだろうか。

早野氏もふれていたが、震災前に原子力災害に詳しい人はほとんどいなかった。各研究者が何かを発信しようとするときに、どうしても、自分の専門を踏み越えたものにならざる得なかった。組織としての決済の手順を踏んでいけばそのようなものはなかなか外に出てこない。一方でそれぞれの研究者には、人とは違う背景があり、そこからくる状況の解釈には役にたつものもあるだろう。そのような思考の結果は個人でリスクテイクする以外に発表の方法はない。「組織として発表する」ことを優先するか、あるいは「個人の活動をサポートする組織」を目指すのか、この2つを天秤にかけてみる必要があるだろう。

もちろん、個人が自由に見解を発表することに問題がないわけではない。ブログを更新するたびに桁違いの計算間違いをして人を不安に陥れる先生に眉をひそめ、被災地の方に対する乱暴な発言を不快におもう人は多いはずだ。一方で、個人の発信に対する規制を始めれば個人を覆い隠す組織を作ることになる。そしてその弊害を今回われわれはいやというほどみたはずである。

渡邊氏( @ynabe39 ) も言われているように、これらの混乱は大学の自由に関わる必然的なコストというものであって、双方を許容することなくして成り立たないものなのである。この仕組みが成り立つために重要なのは、一部の突出した研究者だけがリスクを取って発信することではなく、いろいろな研究者が発信することで、情報の値付けを行うことができるオープンな仕組み作りなのではないだろうか。

さて、私の聞きたかった質問は次のようなものである。早野氏による twitter 上の情報提供は大変整理されたものだったが、彼は「給食の丸ごと測定」を提唱するまで、一切 twitter から出た情報発信を自分の名前で行うことがなかった。「早野黙れ」(早野氏スライド) と言われなければ、もう少し早い段階で新聞・雑誌等のメディアに出る「リスクテイク」をしただろうか?

今にして思えば4月、5月と私はなんどとなく新聞等に意見を出すように早野氏にすすめ、その度に早野氏は会話を打ち切り、断固として「名前は出さない」と繰り返した。611GCM ではガイガーカウンターの比較を行ったが、これは当初は私と早野氏の思いつきで、UST が決まったときに早野氏が表面上降りる形となった。GCM には早野氏のアイディアが多く取り込まれているが、それでもUST の最中は壁際の人を通したのである。

この会議終了の後,早野氏が、何がいいたくて手を挙げたのかと聞いたので、この質問をしてみた。彼の答えは「もっと早く自分の名前で活動しただろう」「組織の一員である以上全く従わないわけにもいかないから」というものだった。それをUST でいってもらうことはできなかったが、ブログに書く許可を頂いたので、ここに書き残しておこうと思う。

奥様からの早野帰れメールに動揺する先生
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by mihoko_nojiri | 2011-12-18 23:32 | 自分のこと

定量限界

定量限界、検出限界という言葉を最近よくきくようになりました。定量限界は測定誤差の10倍、検出限界は測定誤差の3倍ですが、この違いをイメージするのは初めての人には難しいと思います。

食品や体の放射線の測定をするときは、空間放射線などのバックグランドの上に、汚染からくるカウント数の増加があります。汚染が0の食品であっても、誤差=バックグラウンドのふらつきが有りますから、測定数ー期待されるバックグラウンドは、誤差程度の幅をもってふらつきます。ここで誤差が5(単位はなんでもいいとします)であるときに、汚染のない食品を1600個測定したとします。このときの分布を計算機でシミュレーションすると図の上のようになります。今市場にある食品の大半は汚染が少ないものが多いので、食品を測定すると、こんな感じになるでしょう。

たくさん測定すれば汚染されているものも混ざっているでしょう。測定の目的は汚染されたものを見つけることのはずです。1600 個の食品のうち100個が15程度の汚染があるとします。この時この 1600 個の食品を測定すると中段の図の点線のようになります。このうち汚染された食品の分布は実線でかいてあります。全体の分布をみると一つ前の分布のように0をはさんで対称ではなくて、右側にあきらかに汚染品が固まっているのが分かると思います。ただ、測定値が10 だった時に、汚染されているか汚染されていないか、と聞かれると確率 1/2くらいで、どちらとも断言できない状態です。測定値が15であれば汚染が0ということはほとんどない、ということもわかります。つまり検出限界というのは、このくらい大きければまず汚染0ということはないね、という値という考えかたができます。

汚染が15 あるからといって、測定値は必ず15というわけではありません。定量限界程度汚染されている食品の測定値の分布は0近くから30までの間にばらついています。つまり測定値から、汚染量を推定しようとしても倍以上のばらつきがでてしまうということになります。量を定める「定量」できていないのです。

次にカウント数の増分が0以下になった部分に目を向けてみましょう。0以下になった部分は、汚染された食品がない場合とあまり変わらないことがわかると思います。正にずれたものの分布には汚染されたものの影響が入りますが、負にずれた分にはそれ影響が少ない、つまり測定誤差を評価する上で重要になるのは、負にずれた部分の分布ということになります。(放射線測定器にはバックグラウンドよりカウント数が下にずれた場合の値を出さないものが多いようですが、誤差を評価する大事な情報を捨ててしまっていると思います。)

最後に同じ測定にたいしてよい測定器を導入して誤差が 1.5 になるようにしたとします。この測定器で同じサンプルを測定したものが一番下の図になります。汚染されていないサンプルと汚染されているサンプルがきちんと分かれて、重なりがない状態になっています。そして値が +/- 5 の間に総てのサンプルが分布しています。これが定量できている状態です。

数字の変化を追いたい場合は、最低限計りたい値に定量限界が達成されている必要があります。食品を測る時は、余裕をみて食べないという方法も取れますが、人間の内部汚染を測った結果か高かったからといって捨てるわけではありません。時間をおいて定量して差をみていくということが重要になります。例えば20Bq/Kg 以下を目指すのであればホールボディーカウンターの定量限界として、大人で ~1000 Bq 程度、つまり誤差で~100 Bq、検出限界として =300 Bq 程度の測定器が望ましいということになります。(もちろんこの値は目標設定が変われば変わりますが、この定量限界を満たさないホールボディカウンターが使われてる状態であるのは間違いないようです。

このほかに民間の測定機関が提供する検査に前回のエントリーで振れた尿検査があるようですが、ホールボディカウンターで定量できる人体あたり1000 Bq の汚染にたいして、尿に出ると期待されるセシウムの量は一日あたり 10 Bq 程度。一日の尿量を1L とすると 定量限界で10Bq/L 前後が対応するようです。ただ内部被曝と尿中のセシウム量の関係そのものに大きな幅があり http://rpd.oxfordjournals.org/content/64/4/313.full.pdf 内部被曝を推定する手段として疑問の多い方法だといえるのではないでしょうか。


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追記

ちょうど早野先生がこのブログの内容と関連するデータをあげていたので、追記します。福島市の WBC のデータなのですが、上のヒストグラムをみると0の人が40人いて、それ以外にたくさん検出しているという印象をもつ方が多いと思います。このヒストグラムでは人がWBCにのっている時のカウント数からバックグラウンドを引いて0になったものがすべて0に纏められています。実際のカウント数は下の図で、この40人は「負の増分」のデータであったことがわかります。この負の部分は統計誤差を評価する実データとなります。実線は負のデータから正規分布を仮定したときの測定値の広がり=「分散」を評価したもので2例をのぞいて、内部被曝0と考えることもできるデータだということがわかります。(ただし、中央に分布しているものの平均は若干0より多いと考えられます)検出限界はバックグラウンドによって変わるもので「カタログ値」としてバックグラウンドが書かれている場合はどういう環境で実現できるか確認する必要があるでしょう。
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by mihoko_nojiri | 2011-12-03 22:01 | 物理

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