油断するなここは戦場だ

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土は新宿副都心?(ベクミルで肥料も測ってみる)

ベクミルの利用者の中には土や肥料の測定をしたいという方もいらっしゃるのではないかと思います。汚泥や腐葉土を原料とする肥料はセシウムを含んでいる可能性があることは以前のエントリーでも説明しました。こういう物をを汚染されていない土に混ぜ込みたくないというのは当然のことだと思います。

土の測定は農家の方にとってはより切実かもしれません。食品の中に出る放射性物質の量(Bq/Kg) をと土の放射性物質の量(Bq/Kg) の比率を移行係数といいます。特殊な作物(例えば野生のキノコなど)以外はこの移行係数は 1よりかなり小さいことが知られています。つまり、土の放射性物質を測る方が、 食品の中のわずかな放射性物質をはかるより簡単だということです。また、実際に土の汚染度をみて、植える作物を選ぶということも可能になります。

しかしこの場合も注意するべきことがあります。畑には肥料を使いますか、肥料の中にリン鉱石を原料としているものがあります。このリン鉱石のなかには天然のウラン系列の放射性物質を微量に含んでいるものがあります。植物のなかに移行しませんから、生産上の問題はないのですが、土を測定の際にこの放射性物質の存在がやっかいなものになります。また Kのおおい肥料ではK40 も含まれます。これもセシウムを同定する上でじゃまになります。


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上の写真はかつてフォロワーの方から線量が高めなので、と送っていただいた化成肥料のスペクトルです。低いほう(左側)ににぎやかにピークが乱立していてまるで新宿副都心のようです。原子炉由来の Cs の3つのピークは見えていないのでセシウムでないことがわかりますが LB2045 ではこの肥料に 400Bq/kg のセシウムが入っていると判定してしまいました。



[灰色の字でかいた部分は難しいからとばしていいです(><) ]

550 keV ~800 keV 程度のセシウム領域にでているのは Bi(ビスマス) 214 の山です。また高いエネルギー側のピークや構造はK40 のγ線やその散乱で叩き出される電子のエネルギー分布です。(K40 コンプトン端がみえています。) Pb(鉛) 214 のラインスペクトル 295keV (18% )352keV(34%) も検出されています。 これと似たエネルギーをもつものに I(ヨウ素) 131 の284keV , 365keV のラインがあります。しかしヨウ素であれば365keV が 80%, 284keV はわずかに6.1 %と、2つの山の高さに大きな差が出るはずですから、この写真に出ている山はヨウ素ではないと判定できます。Pb214 がごく微量の場合に片方がたまたまみえなかったりすると, このようなNaI の測定器ではではヨウ素と誤認してしまう場合があります。(例 http://www.city.kawasaki.jp/80/80syomu/home/urgency/houshanousui_20110517.html ) またそのさらに下には Pb-212 の 238keV とPb-214 の242keV が重なっています。


化成肥料が過去に施肥されたことのない畑というのはあまりないのではないかと思います。畑の土をはかるとこのようににぎやかな検出線をだしてしまったり、ほかよりわずかに線量が高かったりすることがあるかもしれません。スペクトルを表示すればセシウムでないことはすぐに分かりますが、スペクトルを表示しない場合や、LB 200 のようにそもそもスペクトルを出す機能がない測定器では誤認の原因になりかねません。できれば LB2045 を使い、後で確認するためにも、 上の絵のようなスペクトル画像を保存しておくことをおすすめしたいとおもいます。
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by mihoko_nojiri | 2011-09-27 21:19

走り出す人 III (ベクミルで食品測定)

先週 twitter で知り合いになった東葛ガイガー会の方といっしょに柏のベクミルにいって食品、土などを測ってみました。

ベクミルは時間料金で食品や土壌の放射線測定が自分でできる測定所です。10月11日にオープンの予定でベクレルモニターLB200(4台)と上位機種 LB2045(4台) があります。 LB200, LB2045 については、何度もTL で話題に上っていますが実際にみるのは初めてでした。

LB2045 は5cm の鉛の遮蔽と 直径5cm のNaI が付属した食品測定器です。鉛の容器の中に食品をいれるプラスチックのケースがぴったりはまり、さらに食品の中に放射線測定装置がきちんとはまるようになっています。厚い鉛の遮蔽で外部からの放射線を遮蔽することで、環境からの放射線を遮蔽して、短時間で測定を行うことができます。



d0164049_21581297.jpg


NaI 結晶はγ線が測定器に入って反応を起こすと光をだします。結晶が十分に大きければこのγ線のエネルギーをほとんど全部吸収してエネルギーを測定することが可能です。Cs 137 や Cs 134 からくる放射線は決まったエネルギーをもっているので、γ線のエネルギーの分布に立つ山をみることによって放射線を測ることができるのです。これも結晶が大きいほど有利です。写真はCs137 の線源を測定器のあてた時のエネルギー分布で、きれいな高い山が見えるのがわかります。
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<<細かい話>>

この山の下に相当な数のγ線があります。ここで512 以下のところにある山はγ線が電子にエネルギーを与えて飛去ったときのβ線(電子)のエネルギーが測定されたものです。コンプトン散乱と呼ばれるものです。さらに256keVの下に一山ありますが、これはγ線の後方散乱ピークです。この点については長くなりますので、また次の機会に説明したいと思いますが、大事なことはどのような放射性物質の測定でもこのような構造は観測されるということです。つまり興味ある領域より高いエネルギーのγ線をだす放射性物質はセシウムを探す上で障害になります。(天然にあるカリウムの同位体 K40 など)



食品がセシウムで汚染されていると Cs 134 の山が2つと 137 の山が一つ、全部で3つの山が見えるはずです。実際には食品に入っている放射性物質はわずかです。福島産の椎茸、コンビニで買った那須高原牛乳などはかなり長時間ははかったのですが、表示は 数Bq/Kgから 0 Bq/kg をいったりきたりするだけででした。福島、那須など、消費者が神経質になりそうな地名がはいった食品の中に放射性物質が入っていないというのは、みなさん意外に思うかもしれません。この時のスペクトルは下の写真のような感じで、セシウムのある場所には何も見当たらないことがわかります。
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食品の中に放射性物質が入っているときはどのようにみえるでしょうか。Cs 137 のγ線のエネルギーは 662 keV 一方 Cs 134 は主なものは2本あって 605keV(97.6%) と 796keV (85%) です。(Cs 134 は一個の崩壊で普通2個のγ線をだします。ここで% は一個の崩壊から特定のエネルギーのγ線がでる確率をあらわします。Cs 134 はこのほかに  802keV (8.69%)などもあります。)  今はCs 134 と137 はほぼ同じBq 数であるといろいろな場所で報告されていますので、見えるのであればこの3つがすべて見えなければなりません。 セシウム量がほぼ 0, 75Bq/kg程度、 162Bq/Kg の表示がでたサンプルを上中下に並べてみます。いずれも 15分程度の測定で得られた分布ですが、最後のサンプルにはかなりしっかりした山が三つ見えているのがわかります。

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LB2045 を使うときには何ベクレル検出したという表示の他に、この[スペクトルの山]を確認されることをおすすめしたいと思います。カリウムのおおい食品の場合、バックグラウンドと食品測定の差をとるだけでは、Cs 134, 137 のγ線がくる場所にK40 の散乱から入ってくるγ線をシグナルであると勘違いしてしまう可能性があります。ただし、早野先生によるとLB2045 はK40 由来のバックグラウンドを引く機能もついているそうなので、理解がすすめば、K40 の量から引く操作をすることも可能になるかもしれません。それでもこの山を確認するのが測定の基本です。

(土壌測定篇につづく)
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by mihoko_nojiri | 2011-09-26 22:08

科学と報道の間で (ニュートリノの速度と光の速度)

新しい実験データについての新聞・テレビ報道が研究者の間の「雰囲気」を伝えていないというのは、たしかにあることなのだけど、今回ばかりは少し乖離が大きすぎるような気がするので、久しぶりに素粒子物理の話をブログに書こうと思います。

OPERA は CERN から打ち出したニュートリノビームを、730km離れたイタリアのグランサッソという地下実験施設でで受け止める実験です。CERN から出るビームはミューオンニュートリノですが、ニュートリノ振動があるので長距離を飛ぶ間にタウニュートリノに変化し、これが測定器にあたる時にタウレプトンが出ます。この実験はそのタウレプトンを測ろうとするものです。主要な測定器はエマルジョン(写真乾板)という名古屋大学が長く手がけてきた装置で、日本の貢献が極めて大きいことでも知られています。

今回の発表はこのニュートリノ振動とは関係がなく、ニュートリノがグランサッソに到着する時間が、光速 c よりも早いという測定結果でした。結果のまとめをみるとニュートリノ速度 v と 光速とのずれが(v-c)/c = (2.48 ± 0.28 (stat.) ± 0.30 (sys.)) ×10-5. となるとされています。10万分の一程度のほんのわずかの違いです。

この実験データに対するコミュニティの反応は、少なくとも私の周辺では消極的なもので、ずれがおこった実験的な原因を探すことが重要であるととらえられています。実際、上述の測定結果では統計と系統誤差は十分押さえられていると主張されていますが、実験グループの結果の報告では最後に

Despite the large significance of the measurement reported here and the stability of the analysis, the potentially great impact of the result motivates the continuation of our studies in order to investigate possible still unknown systematic effects that could explain the observed anomaly. We deliberately do not attempt any theoretical or phenomenological interpretation of the results.

と、さらに系統誤差を調べる必要性をいうとともに、結果の理論的、現象論的解釈をしないと異例の断り書きをつけています。

また BBC の報道でも実験グループのメンバーである Antonio Ereditato が「可能な解釈を探したが見つけることができず、間違いも発見されなかったので、コミュニティにこの結果について議論して貰いたい。」さらに、

We want to be helped by the community in understanding our crazy result - because it is crazy”
「このおかしな結果を理解できるようにコミュニティの助けをお願いしたい。なぜならこの結果は気違いじみているからだ」 

と語ったようです。 Nature News によれば、CERN の中心的な研究者であった J. Ellis 発言として

Most troubling for OPERA is a separate analysis of a pulse of neutrinos from a nearby supernova known as 1987a. If the speeds seen by OPERA were achievable by all neutrinos, then the pulse from the supernova would have shown up years earlier than the exploding star's flash of light; instead, they arrived within hours of each other. "It's difficult to reconcile with what OPERA is seeing," Ellis says.

と 超新星 1987a の観測と OPERA の結果が矛盾する可能性を指摘しています。超新星 1987a というのは1987年」におこった超新星爆発現象で、このときに Kamiokande が超新星爆発からくるニュートリノととらえたことで有名です。超新星爆発では爆発のエネルギーの大半がニュートリノとして放出されますが、このときニュートリノがKamiokande で観測された時間が、超新星の光が観測された時間とほとんど変わず、また13個のニュートリノがほぼ同時に地球に届いたことから、ニュートリノの速度と光の速度の差に上限がついています。これは、今回の実験精度にくらべて遥かに小さくなっています。

重力理論を変更すると、大きな速度のずれが許される場合もあるという研究もあり、詳細が書かれたブログもあるようですが、そのブログの元となる論文の著者である Ellis 氏自体が上述の懐疑的なコメントをだしていることからわかるように、実験、理論ともに多くの人がこの結果にたいして大変慎重です。懐疑的な発言が多くなるのには、重力理論は宇宙の初期から現在にいたるまでの発展に関わる基本理論で、すでに多くの観測の結果によって支持されており大きな変更を行うことが難しいからでしょう。

昨日のCERN でのセミナーは私の周辺でも多くの人が見ていて、解析の問題点探しがすでに始まっていました。解析と実際との齟齬が起こりうる可能性があるのは、実データで制限されていない部分です。そのなかの一つにこの実験がCERN 周辺でのニュートリノの時間分布を測定していないという点が挙げられるようです。CERN 側では陽子ビームが加速器から取り出された時の時間情報をセンサーで電流に変換
して測定しています。この陽子ビームがターゲットに当たってパイオンをつくり、さらに崩壊してニュートリノができます。しかしどのようなニュートリノがCERN からでたかという直接的な情報がありません。CERN側で測定した陽子ビームの時間分布が、CERNから送り出したニュートリノビームの時間分布と等しいと仮定し、グランサッソで検出されたニュートリノ事象の時間分布と比較します。どちらの時間分布も、ビームの幅10.5マイクロ秒の矩形に近い形をしており、互いにどのくらい時間をずらせば、その両者の分布がちょうど重なるかを解析します。その際、CERN側の陽子ビームの矩形の立ち上がりの形と立下りの形、そしてそれが反映されるニュートリノビームの形を正確に知らないと、解析を間違えることになります。

さて、「コミュニティが理解を助ける」といっても、実験の詳細を知らないグループ外の研究者が実験の間違いを見つけるのは大変なことです。MINOS や T2K といった同じ長基線ニュートリノ実験もありますが、それぞれ実験条件や加速器の性能は異なります。新たな実験を設計するのであれば、OPERA 実験で系統誤差の原因となりうる要因が明らかになり、それを確実に克服できるセットアップが要求されるでしょう。当面は OPERA グループ内で、コミュニティからの意見を受けてされに詳細な解析が進められることを期待したいと思います。

いずれにしても、疑問に感じるのはい一部大手メディアの報道姿勢です。ネタとしての会話としてならともかく、「これが本当だとしたら、時間を逆に進むことができる」「アインシュタインの相対性理論を覆す」といった表現が使われ、実験自体が複雑な解析を要し、またその中でミスが入り込みうるという我々の共通認識が意図的に無視されているように感じます。しばらく報道合戦が続くのかもしれませんが、実験の内容や、研究者の受け止め方が伝わる報道をお願いしたいと思います。
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by mihoko_nojiri | 2011-09-24 23:01 | 物理

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