油断するなここは戦場だ

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銭とベクレル(あるいは「みそさんが来た」)

今日(日曜)からジュネーブにある CERN に出張。つくばからはアクセス特急ができてかなり早くなったのだが、接続の悪い電車を2回の乗り換える間に眠りこむと大変なことになる。土曜日に鈴木みそさんのコミック「銭」と「限界集落温泉」の一巻を買ったので電車の中で眠気覚ましに読み出して、「これは大変なことだ」と思った。「しまったぁ」である。

ついこの間、鈴木みそさんは震災マンガの取材のためにKEK の広報室においでになった。KEK は茨城県のつくば市と東海村に施設があり、どちらも震災によって手ひどい被害を受けていて、現在復旧作業の真っ最中である.

評論家でもないので、ぐたぐた書く事はさけるが、作品を見るとみそさんの漫画の根源は、際立った人間観察・社会観察にあるようだ。取材の際は、通常のやりとりの間にひやっとするような質問を切り出されたり、
みそさんの質問にこ何かの方向性が突然現れたりするのを、横から興味深く拝見していたが、これだけの観察眼のある人の前に、なんの心の準備もなくうかうかと出て行ってしまったのはマズかったような気がする。
こういう人にかかると、普段の自分の意識しない面とか弱いところとかを、目の前に突きつけられてあたふたすることになる。。。。まあ、先にコミックを読んで、構えていくのもつまらないだろうから、これで良かったのかもしれない。みそさんにとっていい取材だったことを祈るばかりである。

              *************************************

金勘定は、物理あるいは科学の研究と似ているな、というのが「銭」一巻の感想だ。(「銭」は初版発行は2003年だが、近所の本屋には全巻ならんでいた。)

雑誌を印刷するのにいくら、本屋のマージンがいくら、原稿料がいくら、返本率がいくら、一定数以上は札束を印刷するのも同然の単行本(第弐話、参話).... ああでもそれうちの子は全部ワングで半額で買ってまっせ
と頭のなかで突っ込みを入れながら.... リアルは数字に置き換えられ、そしてその数字がなければリアルを理解することは難しい。

科学においても、現象はモデル化され、数字に補強されされる。そして、その数字を手がかりまた次の現象をひっぱりだしていくのが科学の営みである。いわゆる「科学クラスター」なり「物理クラスター」といわれる人たちが震災に関わる現象を語るとき、一部の人たちが感じている違和感もこの「定量化」にあるのだろう。

科学者は比較するのが得意だ。

内部被曝を例に取って考えてみよう。私自身は内部被曝を計算する練習を3月4月ごろによくやってみた。食品に含まれる放射線量(ベクレル/Kg)、あるいは、大気中に含まれる放射物質の量を(ベクレル/m^3)を
換算計数を使って内部被曝量を計算する。報道されるWBC のカウントや内部被曝量を、自然放射線による被曝量や震災直後の空間線量と比較して、重要性を考える。 そこでは内部被曝と外部被曝は同じ シーベルトという単位でそろえられて比較する。つまりベクレルやシーベルトは被曝量をはかる「銭」だ。今後さらに多くの ホールボディカウンターのデータ、食品検査のデータが出て、環境にある放射線と、被曝との関係はよりはっきりしてくるだろう。そうしてこのような定量化をとうして、効率的な対策を立てる事が可能になるのだと考えている。

こういう科学っぽい営みに伴う「つぶやき」に違和感をもつ人は常に一定数いて、ツイッターのエゴサーチでもよくひっかかる。それは「ちょっとでもはいっているからだめ」という気持ちだったり「リスクを比較するのが許せない」だったり「全部計っていないから心配」だったり「物理学者はなんでもモデル化できると思っている」という反感だったりする。しかし、依然として数の少ない食品の測定や標準的な指標からモデルにもとづいて状況把握をする作業は、被曝の実体をリアルに感じて、次を予測するのに必要な作業である。そして、私はそういう作業をする能力を、もっと多くの人が持つ必要があると感じている。

本物のの「銭」=お金の世界に戻ろう。人生に銭を持ち出すと反感をかうが、一方で銭がなくてはなんともならないことを我々は良く理解しているつもりでいる。しかしわれわれはその数に向き合っているだろうか?自分の収入や支出に直接関わる部分はだれもがある程度把握しているだろう。しかしそこから一歩外にでると、一見ここちよい外観に偽装された「銭の世界」はなかなか正体を表さない。コンビニで商品を買うときにわれわれは便利さと品揃えだけに関心があって、その店の収支データに想いをはせる人はいないだろう(第八話〜十話)。しかし、銭の世界が店のあり方を決め、間接的に我々の暮らしを動かしている。そして一つ一つの「銭の世界」とそれに関わる「人のあり方」のリアルに眼を向けたコミックが「銭」なのだと思った。

みそさん取材風景
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by mihoko_nojiri | 2011-07-24 21:57

「大気中の放射性物質」と牛の藁

最近になってもまだ、「放射性物質が大気中にあるので、ガイガーが反応するんじゃないんですか?」と聞かれる時があります。「いえ放射性物質は地面にあります。地面にある放射性物質から飛んでくるガンマ線がガイガーカウンターを鳴らすのです」と簡単に答えますが、自分が気になっている「敵」がどこから来て今どこにいるかが、広く知られていないというのは、困ったことだと思っています。

放射性物質は最初は空気にある細かい粒子にのって来ました。KEK で行われた桝本先生の講演 によると 、つくばにきた放射性物質のうち、ヨウ素は気体として、また1ミクロン以下の粒子とともに、、セシウムは数ミクロンの粒子について運ばれてきたというデータがあります。セシウムだけではなくテクネチウム、テルルなども同じ 数ミクロンの粒子についてきたと考えられています。

このような空気の汚染はつくばでは当初 3/15 日 1立方センチメートルあたり、 0.0001Bq, つまり1立方メートルあたり 100Bq程度観測されました。この粒子が地上に落ちると、その後は移動せず、地上でずっと放射線を出し続けることになります。現在大気中の汚染物質は、つくばでは観測されないか、観測されても 0.001Bq 程度にまで下がっています。初期の汚染対策として、窓を閉める、換気扇を止めるなどといったものがありましたが、現在はこのような対策は必要がなく、汚染の主なものは、地上からくる放射線と、食品による内部被曝となっています。

地上からくる放射線については、除去の議論がされています。以前に触れた、 校庭の土の除去は福島県内で行われて効果があったようです。また放射性物質のある場所には偏りがあり、福島等では側溝などで大変高い値がでているようです。この除染は、通学路の安全確保には効果があるでしょう。一方で、家の周りの雨樋等で一カ所にたまった放射性物質の除染は、周囲の空間線量を下げるのにそれほど効果がなかったようです。これは一カ所に集まった放射線の効果は距離の2乗に逆比例して減少するので離れればすぐに線量がさがること、また地上に一様にひろがった放射性物質の量がはるかに多いためで、一日に浴びる量に関係する空間線量の低減にあまり効果がないようです(例えばこの資料など )。 被曝線量を下げるには、まとまった量の土の除去がもっとも効率がいいようですが、現在ある程度放射性物質の地下への沈降がはじまって、より多くの土を除去する必要があるのではないかと心配しています。

植物は効率よくダストを吸着するため、大量の放射性物質を抱えています。3月の放出の時に大気中にあった葉や落ち葉が大量の放射性物質をかかえていることは2つ前のエントリー(腐葉土のセシウム)でも説明しました。。最近3月4月に屋外にあった藁を飼料とした牛に多量のセシウムがあることがあきらかになりましたが、これは藁に含まれる放射性物質が原因です。振り返ってみると、 環境試料の測定結果(~5/31) では福島の多くの地域で4月に採取された雑草の放射性物質は 1万 Bq/Kg を越えており、問題となった稲藁と同じような状態になっています。土壌に比べると落ち葉の線量はKg あたりの Bq にすると大変大きくなります。これは土壌の測定は 5cm あるいは15cm に含まれる放射性物質の量として定義されているためですが、このようなものを動物に給餌するのは大変危険です。

福島はもちろんですが、震災で放射線観測網が構築できなかった東北地方で汚染に注意するべきかもしれません。話題になった南相馬、いわきなどでは空間線量が4月上旬で 0.5μSv/h の場所でも10000Bq/Kg 以上の雑草があり、 、須賀川市で0.2~0.3 μSv/h 程度の場所で1万を越えている場合すらあります。β線に感度の高いガイガーカウンターはこういう汚染の検知に有効ですので、3月に一旦空間線量が上がった地域ではぜひ飼料の測定をしていただきたいと思います。

今後ですが、葉を直接汚す汚染は大気中の放射性物質の減少とともに減り、その後は土壌から根を通じて吸収される汚染が重要になります。空間線量がある程度高くなっている地域でも、5〜6月以降に植え付けられたものについては、それ以前のものとくらべてかなり汚染が少なくなるはずです。
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by mihoko_nojiri | 2011-07-18 14:02

ヨウ素の旅

あちこちの下水処理上で汚泥の測定がされ、放射性ヨウ素が検出される事例が増えています。これを、福島第一からくると思うと

0) そもそもなぜ下水だけ?
1)ある地域の処理場では出ているのにすぐとなりでは出ていない、
2) 大気エアフィルターにヨウ素はとっくに出なくなっている (例:高崎の不拡散センター http://www.cpdnp.jp/)
3)そもそも半減期が8日なので逆算すると量が巨大、
4)しかもセシウムが出ていない

と、どう考えてもだめだめ (例えば この togetter  http://togetter.com/li/156686 の前半)となってしまいます。

放射性ヨウ素は、医療現場で甲状腺の治療に使われています。甲状腺はヨウ素を集める性質をもっており、治療のさいには、まず甲状腺をヨウ素欠乏の状態にしたあとで、放射性ヨウ素を飲みます。この時には多くのヨウ素が投与されます。入院の場合は放射性ヨウ素は別に処理されて、下水にでませんが、 500MBq=5億Bq 以下のヨウ素の投与の場合は入院の必要がなく、この場合投与されたヨウ素のかなりの部分が尿として、一般家庭のトイレから下水に流れます。

例えば下水にながれたヨウ素が 0.1億Bq でこれが地域の下水処理場に流れたとします。このサイトにでている
一番大きな値をだしている富士北麓浄化センター(http://www.yamanashi-swc.or.jp/hokuroku/hk_data.htm) の一日の汚泥は平均して約10トンですから、1000Bq/Kg と実際に検出されている最大値1500 Bq/Kgが簡単に出てしまいます。なお、この浄化センターの処理地域には、富士吉田市立病院があります。国から地域がん拠点センターに指定されており、放射線科もあるようですが、ここでの医療活動と関係するのかどうかはわかりません。

患者さんが放射性物質を投与された病院と、ご自宅が距離が離れている場合もあるでしょう。富士吉田市立病院は大変立派なライナックを有する放射線治療科がありますが、ネット上はヨード内服治療をやっていることは確認できませんでした。静岡の狩野川東部浄化センターの処理地域も内服治療をやっている病院はないようです。甲状腺の病気は人がいればどこにでも発生しますし、治療費の面からも通院で治療できるメリットは大きいと思います。

ただ、甲状腺治療をやっていることが明らかな病院のある地域でヨウ素が観測されることも多いように思います。たとえば山梨の釜無川浄化センターは山梨大学付属病院のある中央市を含んでいます。松本の宮渕浄化センターは信州大学付属病院、いずれもヨウ素内服療法の治療ができる病院を処理地域に含んでいます。
 甲状腺のヨウ素内服治療についてはこちらに情報があるようです。 ( http://oncology.jsnm.org/iodine/list/thyroid#04   PDF のリスト http://t.co/oLxmDW9  )
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by mihoko_nojiri | 2011-07-18 10:36

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