油断するなここは戦場だ

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絶対にあってはいけない被曝。

今日大変残念なニュースを聞きました。

作業員の方が2名150mSv超の被曝をされ、しかもその原因が β(ベータ)線熱傷だったということです。被曝された場所は3号機の地下で、水もれした燃料プールから落ちた水であったため放射線濃度が高かった可能性もあります。

β線というのは原子核の崩壊からくる電子です。比較的寿命の長い不安定な原子核はこの崩壊をします。電子は電荷をもっていますので、比較的簡単なもの、例えば薄い金属のはいった装備で簡単に防ぐことができます。ところが、この作業員の方は「くるぶしぐらいまでの靴を履いて深さ30センチの水につかって作業をしていた」ということだそうです。β線は比較的早く止まるので、被曝しても通常のガンマ線カウンターでは検出できず必要な退避行動ができなかったと考えられます。

これが意味することはいろいろあります。まず装備が十分ではありません。プールから来た水の可能性があり、危ないから引き返す必要があるという、基本的な教育がされていません。放射線の特性も、どこが濃度が高い可能性があるかも、知らされていない、あるいは、予想されていません。そして、現場にある危険を事前に警告する専門家がいません。作業員の方の努力はメディアで報道され、国民のみなさんが無事を祈っているこの状況で、このような状況は絶対に許されないことです。

東電は緊急に作業員の安全を確保されること、また国が万全の支援体制を国内に作ること、また外国から
専門家のアドバイスをうけて、受ける必要のない被曝をされることがない体制を作ったいただきたいと思います。
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by mihoko_nojiri | 2011-03-24 21:20 | 物理

「福島原発の放射能を理解する」の翻訳へ頂いたコメント等につきまして

昨日公開しました、 Monreal 氏の講演(「福島原発の放射能を理解する」の翻訳については、いろいろ不安もあったのですが、昨晩はおおむね肯定的な反応をいただいており、一安心しているところです。

まずこれを翻訳した動機について述べます。このスライドの特徴として、21ページ目から段階をおって、炉心損傷がすすんでいくところをわかりやすく示しているところにあると思います。現在の炉の状態は24ページから25ページに進むことを阻止しようとしている段階と理解できるでしょう。燃料そのものに着火するほど温度があがると、環境に長期的にのこる核燃料が出るので、それを防ぐための作業が行われていることが、わかりやすく書かれていると思います。また26ページのチェルノブイリ事故とくらべると、遥かにコントロールする可能性があることも分かります。

もう一つこのスライドの良い部分は、物理現象、生命に体する危険、炉の状態、今後の予想までがコンパクトに入って短いことだと思います。地震からすでに一週間たち、ネットや新聞紙上にいろいろな解説がされています。ここに書かれている情報は、すでにいろいろなところで目にされていることばかりですが、一つの講演に収まる分量での解説も重要であると思います。一方講演スライドであるが故に記述が簡単化され問題があるのではないか、というご指摘もいただいています。講演は本来話者との対話と一体として考えられるべきもので、記述の不足は講演の中で修正されるべきものです。本来の講演のよさを残すためにこのまま残しますが、改めて、これだけを判断の材料をされるのではなく、詳しい資料のにあたるための糸口として使っていただきたいと思います。尚、このサイトに英語ですが講演の音声があります。

いくつかいただいたコメントについて私なりのお答えをしていこうと思います。内部被曝の重要性について記述がない、あるいはヨウ素、セシウムについての記述が十分でない、プルトニウムの化学毒性について、といったコメントは頻繁にいただいています。ヨウ素は甲状腺への蓄積があり、チェルノブイリでは小児ガンの増大が問題になりました。これについては事前にヨウ素剤を飲む事で防御可能です。セシウムは体内蓄積はありません。(追記 長期の体内蓄積とするべきだと思いますが、かなり前の記述ですので残してあります。尚、現在ヨウ素はなくなり、主にセシウムが内部被曝の主要原因となっています。11/9 2011) 一旦摂取すると100〜200日程度体内に残りますが、危険度はヨウ素よりも低いと考えます。講演スライドであるということから大幅な加筆は必要ないと考えています。またこのスライドについては、原発近くの危険な環境で現在作業する方は、長期的な復興作業の詳しい解説を意図したものではなく、プルトニウム等についての記述も大幅に増補注釈をつける必要なないと考えています。より詳しい解説は他のサイトをあたって頂ければと思います。

放射線の危険性の記述が軽すぎるのではないか、というご指摘も多くいただきました。このスライドでは大きく健康に影響のある値を基準にして議論がすすめられていますので、逆の立場から説明してみたいと思います。平均的な自然放射線は 2mSv/year 程度で、一時間あたりにすると 0.2μSv/h になります。この 前後で放射線の数値が増大しているうちは、特段の対策は必要ないと考えられます。胎児に何らかの影響がみとめられる量は年間50mSvだそうです。たとえば原発の今の状況が100日程度続くと仮定すると、20μSv/h 程度が続くような状況は大変問題であると考えています。福島県では原子炉から50Km離れた福島市で、一日以上 20μSv/h 程度の線量が続くということがありましたし、また30Km圏内のすぐ側で、100μSv 程度の線量を維持してる場所が複数あります。現在はかなり下がっており、また、文部科学省で測定を継続されているようですが。(茨城県でも継続して測定されています)さらに強化・継続していただいて、確実にリスクを下げることが重要です。

リスクには個人のリスクと公衆衛生上のリスクがあります。個人的な発ガンのリスクが1%あがることは10万の人中1000人の発ガンを意味することになります。(それでもタバコの公衆衛生上のリスクよりは低いですが、) リスクをどの程度にとどめるべきかについては、国民的な理解とコンセンサスが必要です。それがスライド最後の「放射線量を計って決断しなさい」ということの趣旨であると思います。

再臨界するのではないか、というご質問をよくうけますが、これははっきりいって手に余ります。沸騰水型の原子炉は水を使って中性子を減速させ、核子に取り込まれる確率をあげることで臨界となる炉です。臨界(ウランから出る中性子が次の反応を引き起こす)するには、中性子が外にでることができるように)細い形状の燃料(の間に隅々まで水をいれ、となりの燃料に効率よくとどくようにしなければなりません。制御棒が突然おちて臨界になっても水がなくなれば反応が止まります。さらにスリーマイル島では燃料が圧力容器の底にばらばらになってたまる状況になりましたが、臨界には達していません。これよりさらに悪い状況を仮定した時に何がおこるかは原子力関係者の分かり易い公開講演等を期待したいと思います。そもそも、講演をされた方、翻訳者も、素粒子、原子核の理論・実験の研究者です。つまり、原子核の個々の反応については詳しく、関係書籍を読めばそこを踏み越えた部分についても多少言及できる知識はもっておりますが、原子炉内の工学的な問題について「絶対」おこらない、あるは起こりうる等の発言はできませんので、その点ご理解いただきたいと思います。MOX についても同様です。

最後に,大きな変更を伴うご提案をいただいていますが、元の講演の内容から大きく変更することは「翻訳」の趣旨からはずれます。大きな改訂を行うことは考えておりませんので、なにとぞご理解頂きたいと思います。また意図的に訳出しなかった部分があります。「石炭燃料を燃やす事による放射能拡散のリスクの方が高い」という文章は講演中の笑いを取るためのテクニックとしては良いかもしてませんが、不謹慎とも思われるので省きました。(「運転中の携帯電話の操作リスクの方が高い」という文面も今は訳出していますが私はとりたいと考えています。) もとのスライドの誤植、明らかな誤訳についてのご連絡を頂いていますので、そちらについては早急に確認したいと思います。

(以下3/20記載)
#多数ご指摘いただいたのですが、スライド内の放射線障害をおこす率についての数字に不適切な部分があり、ご本人の了解のもとに改訂したものを作りましたので、そちらをご覧ください。このブログにおける私の意見も参考にしていただけると幸いです。

##内容が刺激的だから削除してはどうか/楽観的すぎるから削除したらどうか等いろいろな方向から編集すべきだという意見をいただいていますが、すでに20万以上ダウンロードされおり、大きな編集はしない予定です。私の放射能に体する考えは彼のものと違うことは、私のブログの内容をみれば分かっていただけると思います。「大衆は間違った判断をするから意見は公開しない方がよい、というご意見も多いように思いますが、私がtwitter 上で見た範囲では一つの意見として受け止められていると考えています。特に日本の科学者からの発信が少ないと感じており、今後科学者からのご意見は私個人宛ではなく、ブログ等で社会発信して頂くようにお願いしたいと思います。

###私自身の原子力発電ついての意見をいってほしいというコメントもいただkましたが、現状は根拠のない不安流言にたいしてできるだけ順序立てて放射能のことを解説していくのが重要と考えています。原子力発電、科学の意義等についてのコメントはとりあえず承認しましたが、以後のご議論等は場所をあらためてやっていただけるようお願いします。
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by mihoko_nojiri | 2011-03-19 08:45 | 物理

「見つからないって素晴らしい」

まじめな話はここまでにしてネタポスト。

「最初の一年で何もみつからないハドロンコライダー実験」ってのは実はとっても素晴らい。今LHC 実験データをみて感銘をうけるのは、「理論的な数値計算の予言と実験があっている。」ので新粒子にすぐに制限をつけることができることだ。

昔は ハドロンコライダー実験は現象がきちんと理解できないからといって毛嫌いすることが人が多かった。昔昔 UA** 実験というハドロンコライダー実験では事前に想像されていたいろんな粒子(含超対称粒子)を見つけたと言ってしまい、後から全部取り消しになった。今から17年ほど前、そう、SSC 実験が中止になる数日前に、ハドロンコライダー関係の会議のバンケットで、ある有名な理論の研究者が、居並ぶCDF D0 実験(テバトロンの陽子反陽子衝突実験)の研究者の前で

「明日はSSC の大事な投票の日ですが、
私はハドロンコライダー実験のデータは信じない」
(ママ)

と発言して、泣きたくなった記憶がある。実際SSC 実験が計画されていたころには、ジェット(クオークやグルーオン由来の粒子の束)の数が多くなるとまともな理論計算ができない状態で、 電子陽電子衝突をやっている研究者がその点についてことさらにつっこみをいれたりしたものだ。

このような状況が改善されたのが、quark が最終状態に多数あっても計算ができる ALPGEN , Sherpa, Madgraph などの数値計算コードの開発だ。このような計算が一般的になったのは、ごく最近、ここ5年ほどのことである。SSC 実験がもし予定とおり2000年に始まっていたら、実験と理論の差は大きくよくわからないものがたくさん発見されていただろう。

日本の実験グループはアトラス実験の中でもこのようなコードで計算できる高次効果を取り入れた BG の解析でリーダーシップをとっている。日本の理論でこの手のコードの最初のユーザーは私で(これは実験グループに触発されたところが大きい)標準模型のプロセスの計算だけでなく、超対称粒子の生成と同時にエネルギーの高い quark や gluon が同時生成かれる過程の解析(例えば Novel reconstruction technique for New Physics processes with initial state radiation. Phys.Rev.Lett.103:151802,2009.)は研究の一つの柱になっている。また今年の9月にはこのような先端的な数値計算コードのスクールが日本で開催される予定である。
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by mihoko_nojiri | 2011-03-09 22:44 | 物理

実験で見えないってどういうことか

twitter で@ipmu_supporter さんから Nature に 超対称粒子がLHC でみつからず、超対称性が素粒子にあるという模型が不利になっているという論調の記事がでていたということを伺いました。「 まだ時期尚早という気が門外漢からはするのですが、どうなんでしょう..?」というご質問ですが、まったくその通りです。

まず、LHC で超対称粒子が生成される率と粒子の質量によって全然違います。今回の実験で存在しない、とされた質量の領域はだいたい squark gluino の質量が700GeV~800GeV くらいのところまで、とされています。素粒子を発見するというのはどういうことかというと、多くの場合その粒子は走っているところを見る訳ではなく、それが生成され、崩壊してなにかの粒子になったところを観測します。もちろん一回一回の衝突で新しい粒子が生成される場合もあれば、すでによく知っている粒子を作る場合もあります。シグナルがなるべく見え易い事象の特徴を想定し、その特徴をもった衝突が何回おこったか想定します。それが、その粒子が存在しない場合とくらべて十分に多いかどうかで制限を決めます。

例として、ある新粒子が存在すれば20個期待され、存在しないときは10個期待される場合を考えてみましょう。素粒子の衝突というのは一回一回サイコロをふるようなもので、10個期待されるときに実際に観測されるのが7個であっても13個であってもそれは標準模型が違っていることにはなりません。一方で、観測されている量が20個であれば優位( 3σ)で標準模型と違います。逆に新粒子のみで20個期待されている時に、10個しか観測されていない場合、その新粒子が存在するということはだいたい 2.2 σくらいで否定されている、といいます。今発表されているlimit は 95% CL といわれこれは、2σに対応しています。

今回は超重力模型という超対称模型の一つを仮定して、700GeV~800GeV という数字がでています。これは生成率が "2pb"程度以下でないといけないということに対応しています。これは超対称粒子が 100個程度作られれば制限がつくけれど,それ以下では無理という意味でもあります。この質量より重い超対称粒子はLHCではまだほとんど作られていないので制限のつけようがないのです。ちなみに、LHC で top quark の生成断面積はこの100倍くらいあります。

超対称粒子の質量がこの制限以下で、たくさん作られていても、見えないということもあり得ます。この実験で探索している超対称粒子は安定なLSP (ダークマター)に崩壊します。このときにたくさんの粒子が作られますが、この粒子のエネルギーをあわせると作られる超対称粒子と LSP の質量の差程度のエネルギーは確実に出ます。バックグラウンドとなるプロセスはエネルギーの低い粒子しか出さないことが多いので、高いエネルギーの事象であることを要請してバックグラウンドを減らしています。しかし、質量の差が小さいと 超対称粒子から放出される粒子のエネルギーが小さすぎ、標準模型の粒子の生成が出す信号とかぶってしまいます。
こうなるといろいろ工夫しなければいけなくなります。

アトラス実験が制限を与えた超重力模型は標準的な模型の一つですです。非常に高いエネルギースケールで超対称粒子の質量が同じであると、我々が実際に観測する超対称粒子の間に大きな質量の差がでます。グルーオンの超対称粒子は重くなり、他のゲージ粒子の超対称粒子は軽くなります。クオークの超対称粒子が重くなり、レプトンの超対称粒子は軽くなります。しかし、理論的にはこのようになるべきという保証はなく、実際にある種の模型では、すべての超対称粒子の質量がほぼ同じになることが可能です。一番重い超対称粒子とLSP の差が30%くらいしか違わないとなんの制限もつかないだろうと言われています。(自分の論文で恐縮ですが Discovery of supersymmetry with degenerated mass spectrum.Kiyotomo Kawagoe,(Kobe U.) , Mihoko M. Nojiri, (KEK, Tsukuba) Phys.Rev.D74:115011,2006 など。)


アトラス実験では、特定の条件を要求したときに、新しい粒子由来のシグナルがいくつ以下にならないといけないか、という、より一般的な結果をだしていますので、超重力模型以外での発見可能性について理論の研究者でも比較的簡単に評価することが可能です。私の学生やPD にはアトラス実験の制限を積極的に取り入れるように指導しています。シグナルが見えた時に、現実的な状況のなかで自分の模型のシグナルがどのくらいの量でるか把握できることはとても大事なことです。今年は昨年の約20倍の陽子陽子衝突が期待されていますので、超対称模型に限らず新しい現象が見つかることを期待しています。
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by mihoko_nojiri | 2011-03-09 21:50 | 物理

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