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油断するなここは戦場だ

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4次元目に住む〜電子顕微鏡とLHC

どこかに集中講義にいうと、素粒子の専門家むけじゃない話もしてください、といわれる。そして,そういう時はすごく困る。素粒子の研究者がLHC に向けてどういう素粒子の模型(見つかってない素粒子にどういうものがあって、そういうダイナミクスを持ってるかという予想)を研究してるか, っていう話をしないといけないからだ。

素粒子の模型の中には「空間は実は3次元じゃなくて4次元(あるいは9次元とか10次元とか)でぇ」、という
ものがあって、多くの人がそれ研究している。分野全体の話をするときには当然こういう模型の話もしないといけないわけだけど、気まじめな物性物理の研究者は「底知れない不信感」をいだいたりするようで、時には「それは物理なんですか、SF なんですか」と聞いてくる正直な人もいる。

このような状況を打開すべく編み出した手法は、「今知られている素粒子の性質について我々がきちんと測定していて、測定と理論的な予言がぴったいあっている」こと、を始めにきちんと触れる、ということだ。素粒子模型というのは実験データと矛盾していてはいけないし、すべての素粒子のプロセスをきちんと説明できるものでなければならない。そして新しい理論を提案するときは、今のデータを説明できるだけじゃなくて、将来の実験できちんと「検証」できるものがよい。それが我々のゲームのルールになっている。

じゃあ、空間が実は4次元、という我々の日常の感覚とまるで違うことが、どうして今われわれの持っている実験データと矛盾しないのだろうか?

これには実は量子力学が関係している。

ものの大きさを計ろうとするときには、光や物質といった粒子をあてないといけない。光であれば、その波長が調べられる空間の最小の大きさを決めている。波長は物差しの一番小さな目盛りで、それよりも短い距離の情報は、平均化されてしまうのだ。例えば、可視光の波長でみる光学顕微鏡では、どんなに短くても O(100) nm ( ~10^-4 mm)をみるのが限界で、それより短い距離はどんなに立派なレンズを使ってもみることはできない。つまり4次元目の空間が存在するかどうか可視光で計ろうと思ったら、 4次元目の大きさは100nm より大きくないとわからない、ということになる。

光だけではなく、我々を構成している電子や陽子といった粒子も、すべて波としての性質も同時にもっている。これが量子力学のいうところだ。粒子が波であるということは、今ではとてもきれいな実験が実証できるようになった。たとえばこのリンク先では、電子を2つのスリットに向けて発射すると右のスリットを通ったものと左のスリットを通った電子が波として干渉してできる縞が表れるのを動画でみることができる。 (http://www.hitachi.co.jp/rd/research/em/doubleslit.html) 電子は一個一個うちだされ、画面の上にあらわれる。一個一個の粒子は点だ。でも、電子をなんども打ち出していくと波が干渉したことによる縞が浮かびあがってくる。

電子も波だという性質を利用するのが電子顕微鏡。電子顕微鏡は大掛かりな装置だけど、そのてっぺんには電子を加速する加速器がついていて、電子を可視光よりも高いエネルギーに加速して、見たいものにぶつける。「波長はエネルギーの逆数に比例する」という量子力学の性質があって、粒子を高いエネルギーに加速してぶつければ、空間のより細かい構造が見えてくる。最新の電子顕微鏡は100 keV=10^5 eV くらいのエネルギーをもった電子を使っている。(可視光はだいたい 1eV のエネルギーをもっている。)

LHC 実験では陽子を 7TeV= 7x10^12eV という高いエネルギーまで加速する. 可視光の波長の1/10^12 の空間構造が見える装置、ということになる。もし4次元目の空間の大きさがそれよりも大きければ、加速された陽子の中にはいっているクオークやグルオンが4次元目の空間に入り込んで、その空間に特異的な反応をする。LHC 実験はわれわれが感知することができない空間構造の探索をする装置としても期待されているのだ。
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by mihoko_nojiri | 2010-07-24 00:45 | 物理

青やんの思い出。[虫の嫌いなひと禁止]

iias つくばの農家直営の野菜売り場は私はあんまり買いにいかないんだけど、だんなは好きで週末の野菜はそこで調達される。土曜日。買い物リュックをあけると、青虫1号と2号が、内側に張り付いていた。大葉の束が出所のようだ。店内とちがいリュックに日があたって暑いし、だんなが汗臭いので逃げようとしたようだ。簡単なお弁当ケースの蓋に穴をあけて飼ってやることにした。

青虫は手で触ると雑菌がついて弱るのでティシュかなんかで救出する。1号の処理が終わってみると2号がみあたらない。可哀想だがあきらめになった。大葉を何枚かいれてしばらくするとウンコが2個おっこっている。安心したようだ。名前はあおやんに決めた。だいたいプリンターの上においていて、ちょっとお話したいときは PC のとなりにおいてしげしげとみる。子供よりかわいい。


きれいな緑だが、体の節がはっきりしていて、だるまおとしの側面のようなかんじ。体を立てに通って緑の筋があって背中のものが特に色が濃くて、深いところでどきんどきんと脈打っているようにみえる。なにかきれいなものが流れている感じだ。昆虫の循環系は半開放なのだけど、体の中から体液をあつめてまた体の中にまわす、背脈管というものだと @anhebonia さんにおしえていただいた。(カイコ幼虫の内部形態 http://bit.ly/ajV80D が恐ろしい。)

日曜。ともかくよく食べる。朝おきて葉をかえてきれいにして、昼までのあいだに15個くらい糞をする。びっくりさせると固まるが、それ以外はずっとたべている。こんなことでは一週間に何枚葉っぱをかえないといけないんだろうとちょっと心配になって、もう一束買いに走った。

月曜の朝は食事も仕事もけだるい感じで、こちらの気分を察したのか、あおやんは葉っぱの下にもぐりこんでいた。きれいな葉っぱに交換して、じっとみると昨日のようにがつがつ食べない。首をのばして、辺をみまわしたりしている。夕方帰ってくると、やはり葉っぱの下にもぐりこんでいるようだ。糞がほとんど見当たらない。もしかして冷房してないと暑さで死んでしまうのかと思って葉っぱをのけたら、ガーン糸をはいて繭のようなものを作っている。

「蛾だ。」

いいよいいよ、蝶じゃなくて蛾でも、私は青やん好きだし仕方がないよ、そうか「青虫=もんしろ」じゃないよな、そりゃ。朝は隠れる場所を探していたのか、わるかったね。ところでお前はだれ?と思って幼虫図鑑 http://aoki2.si.gunma-u.ac.jp/youtyuu/index.html を眺めるも、緑の青虫の種類の多いこと多いこと。しかも青やんに似ているものは大半が

「蛾」

で、しかも「かなり悪質な害虫」だ。園芸家の怨嗟の声がブログ上にあふれている。体が素敵な緑なのはもちろん見つからないための策略だ。

万策つきてTL になげると、ヨトウじゃないかといわれる。見てみると夜盗虫は夜な夜な畑にでてきて葉っぱをぬすんでいく夜行性の虫で、しかも、最終齢はきたない灰色、でかい。「青やんがこんなものになったらやだな、捨てようかな、(; ; )」 とおもったが、冷静になると、もうさなぎなんだから、大丈夫なはず。そう、結局、青やんの素性の手がかりは夜盗虫にあった。ヨトウムシはとんでもない害虫なので、見分け方の詳しい説明があったのだ、どうも、タマナギンウワバかその親戚らしい。青虫図鑑の写真とくらべるとタマナの方でよさそうだ。

青やんは今はプリンターの上で寝ている。静かにしているけど、完全変態をする昆虫の体のなかはとんでもないことになっている。神経と呼吸器官以外は完全に分解されて、体をもう一回新しく作り直さないといけないんだ。進化の過程のどのステップでこんな大技を発見したのか、これは、すごい謎なのではないだろうか?体の中をみたいけど、今はがまんだ。黒っぽい蛾がでてくるはずだけど、うまく羽化させるにはどうしたらいいだろう?



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by mihoko_nojiri | 2010-07-17 20:51 | 生物

壊れる、、、壊れない、、、

ブログの反響をみているなかに、「ミューオン壊れるってどういうこと、なくなっちゃうの」 というのがあった。
(こういうのを at つけて飛ばしていただけるとうれしいのだけど)

19世紀というのは「化学の世紀」でその中で培われた概念の一つが、「物質は保存する」「エネルギーは保存している」、というものなんだと思う。日本人は高校で、「祇園精舎の鐘の声」だの「行く川の流れは絶えずして」だの無情感をたたきこまれるけど、ミクロにみれば、「こわれちゃた、なくなっちゃった」からといて「それを構成している原子」がが消え去ったわけじゃない。単に配置が変わっただけだ。なにかが起こったあとで、量がかわらないことを僕らの業界では「保存する」という。

だからミューオンが見つかって、それが、崩壊して電子に変わった、しかもどうも運動量が保存してないっぽい、とわかった時には、みんな驚いた。ミューオンが宇宙線のなかから発見されたのは1936年のことだ。(中性子はこれ以前に発見されてるし、中性子の崩壊もしられてたけど分野の人は目をつぶっていてほしい。ほら、中性子は素粒子じゃないし。)

1935年に湯川秀樹が中間子論を発表していて、パイ中間子を予言していた。宇宙線の中にみつかった粒子の質量は、予言されていたパイ中間子の質量程度(陽子の質量の1/10) だったので、中間子に違いないと思ったが、よくよく見ると性質がおかしい。中間子論は「軽い中間子が陽子の間を飛び回って原子核を一つのまとまりにしている」という理論だけど、宇宙線の中の粒子はほとんど原子核と反応しないのだ。一方で宇宙線のなかからはすごい量が見つかるので、これは宇宙からとんでくる陽子が大気とかなり強く反応して作られたことは間違いない。見つかったものが、まるっきり期待はずれだったので、 Rabi っていう研究者が Who odered that?(「それ誰が注文したの?」)って言ったという話が残っている。(http://en.wikipedia.org/wiki/Carl_D._Anderson)

理論計算と実際に観測される結果が違うわけだけど、当時は素粒子反応を解析する理論(場の理論)はまだしっかりしていなかった。「場の理論」を使って素粒子反応を計算するといたるとこに発散がでて、どうしたらいいかわからない。湯川は素粒子が「点」じゃなくて「広がっている」ものであれば発散の問題は解決されるという「素領域」という理論を考えていて、宇宙線でみつかった粒子の問題も、場の理論の困難が解決されれば同時に解決されるのではないかと期待していた。(この理論はついに完成しなかった。)朝永は広がった粒子という立場はとらなかったが、やはり場の理論の問題に手がかりをもとめていた。一方で坂田は、「二中間子論」つまり湯川のパイ中間子が、宇宙線の中に入っているミューオンに壊れる理論を提案していた。これなら、湯川の理論で予想される相互作用と宇宙線の中に観測される粒子の性質の違いが説明できる。なんの話かよくわからないという人、陽子の衝突でむちゃ強いスーパーマンがつくられるんだけど、すぐに衣装を脱いで普通のおじさんに変わってしまうところを想像すればよろしい。二人の人は全く違う性質をもっているけど、服を脱いでも一人は一人だ。

この問題がようやく解決されたのは、1947年(?)に本当のパイ中間子が発見された時だ。坂田が正しかった。パイ中間子はミューオンとニュートリノに壊れる。ミューオンは電子と2つのニュートリノ(つまり3つの粒子)に壊れる。パイ中間子は陽子と強く相互作用するけど、ミューオンはほとんどしない。反応の前後で運動量は保存する。でも、簡単に観測できるのは、電荷をもつ粒子だけなので、ミューオンの崩壊をみると、ミューオンが突然電子に変わってエネルギーがなくなったようにみえる。

重い素粒子がより軽い素粒子に壊れるのは普通の現象だ。素粒子物理の研究では素粒子作ったあとで、その崩壊のパターンを調べることが多い。たとえば、KEK のB factory 実験では bottom quark という素粒子がどういう粒子に崩壊するか調べている。一方で、壊れない粒子=安定粒子(電子と陽電子、原子核の中に安定して存在する陽子や中性子など)については自然の中にはこれらを安定にしている仕組みがある。電子が壊れないのは、電子が電荷をもつ一番軽い粒子だからだ。素粒子の反応では電荷が反応の前後で保存するから、一番軽い電子はもう壊れる先がない。陽子の安定性はバリオン数という別の量の保存で理解できる。

それ以外の粒子は「崩壊」する。宇宙が始まったときにたくさん素粒子が熱的に作られたはずなんだけど、全部崩壊していなくなった、われわれは日常的な体験から粒子は安定なものばかりだと錯覚している。止まっているミューオンの寿命は 2.2x 10^-6秒。これは崩壊する素粒子の中では格段に寿命が長いほうなんだよ。

もう一つ安定な粒子のことを忘れていた。それは暗黒物質を作っている素粒子だ。これは宇宙ができたからいままで、ずっと宇宙に存在していると考えられるので、電子や陽子のように、安定な素粒子の仲間に数えられる。なんで安定なのか、その仕組みについては、実際にその存在を確認して、性質をあきらかにしないとわからない。いろいろなアイディアはあるんだけどね。
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by mihoko_nojiri | 2010-07-16 17:13 | 物理

暗黒物質と不活性気体

暗黒物質は見えない粒子だというのだけど、見えないというのはどういうことだろうか。

われわれの視覚を分子レベルに還元すると、網膜の中にはレチナールという物質が光にあたることによって形状が変わる仕組みに乗っかっている。(http://www.orgchem.org/yuuki/rodopsin/rodopsin.html)見るということは分子レベルに還元すれば光と物質の「相互作用」ということになる。一方で、見えるためには光をださないといけない。我々がお互いに相手がみえるのは、我々の体の表面が特定の波長の光を反射する性質をもっているということになる。体は原子核と電子でできているので、我々がお互いを見ることができるのは、電子や、陽子が電荷をもっているということを意味している。

測定するのが簡単な粒子も、電荷をもっている粒子だ。KEK のコミニュケーションセンターには、スパークチェンバーという装置があっって、電荷をもった粒子(宇宙線)が通っていく様子をみることができる。http://www.kek.jp/newskek/2003/sepoct/sparkchamber.html この装置の原理はこうだ。電荷をもっている粒子が気体の中を通ると気体のなかから電荷をたたき出す。このとき、電場がかかっていると、電子は移動しながらさらに他の気体から電子をたたき出していく。最初の反応ででる電荷がわずかでも、電圧をかけることによって、大きな信号を取り出す事ができる。高電圧をかけるので、このスパークチェンバーにいれる気体としては、不活性気体が選ばれる。 KEK に今あるものは、ヘリウムガスを使っているし、この50年以上前に装置を最初に作った大阪大学の福井•宮本はネオンを使った。

このような仕組みでは電荷をもっていない粒子では働かない。最初の電子をたたき出す反応がほんのちょっとしかおきないからだ。暗黒物質も電荷が0の粒子だと考えられている。そうでなければ、スパークチェンバーで簡単に発見されてしまうだろう。


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で、前置きがながかったんだけど、今日はこの不活性気体の話をする。なぜかというと、不活性気体というのは、ちょっと暗黒物質と似ているところがあるからだ。

化学は全然専門ではないので、奥野氏の著作 http://ci.nii.ac.jp/naid/110001824632 と、wikipedia から拾ってきた知識で話をする。
アルゴンは原子番号18番、最初に発見された不活性気体だ。この気体を発見したのは レイリー(Rayleigh) と ラムゼー(Ramsay) で、この研究からノーベル物理学賞とノーベル化学賞をもらっている。

レイリーの当初の研究の動機はプラウトの仮説の再検討だ。プラウト仮説は「物質の基本的な構成要素は水素であり、原子核の質量は水素の整数倍である」、というものである。今日的な観点にたてば、原子核は陽子と中性子によって構成されており、これらの質量はほとんど同じであるから、この仮説はかなり、ことの本質をとらえている。近代科学における最初の素粒子論といってもいいかもしれない。

当時の研究でもプラウト仮説は塩素、マグネシウムなどいくつかの元素について「だめだめ」だということが知られていた。例えば 塩素は自然界では35Clと 37Cl が混合した気体だから原子量が 35.5 でどうみても整数にならない。でも、同位体の少ない元素についてはこの仮定が精密に成り立つので、捨てるに捨てがたい仮説であったと想像する。研究を進めていくうえで、荒っぽい仮説が実は本質をとらえている例はほかにもある。精密な測定がある仮説を否定しても、それがずれが思いがけない別の事実によって引き起こされているといったことは、サイエンスの世界ではよく有ることなのだ。。

レイリーの研究は窒素化合物から窒素を合成し、窒素ガスの密度を計るものであった。彼はこれ以外にも大気から、酸素、二酸化炭素、水蒸気等をのぞいたガス(つまり当時の知見において窒素ガスだと思われるもの)についても質量の測定を行った。つまり作り方の違う2つの窒素ガスの密度を測定したのである。驚いたことにこの2つの値は有意に異なっていて、大気から得られた窒素は化学合成した窒素に比べて重さが 0.5 % 多くなっていた。これまでの方法では取り除けない何かが、気体に混ざっているのである。このあと、化学者であるラムゼーが大気から窒素を除去し、残った気体の密度を測定した。それは水素の気体の19倍の重さを持っていて(アルゴンの原子量は40であったが、この時点での精度)、ほとんど科学反応をしなかた。

アルゴンは化学的なアプローチ、つまり気体反応を観察するという観点では「見えないもの」であり、物理の中での暗黒物質の位置づけと似ていることは興味深い。この不活性な気体は「怠け者」を意味する 「アルゴン」という名前がつけられた。1894年のことである。その後、ラムゼーは様々な共同研究から他の不活性気体を発見している。(クリプトン、ネオン、キセノンは 1898 年に発見された。)不活性気体のなかで最も軽いヘリウムの発見はもう少し複雑な経緯を辿っている。1868年、太陽の出す光のなかから、これまで知られていなかった未知の輝線が発見される。ラムゼーがウラン鉱からこれに対応するヘリウムを発見したのは、1895年のことである。ヘリウムは通常大気中には存在しないので、地球上で作られている場所で集めなければならなかったのだ。ヘリウムがなぜ太陽に多数あるか、それが太陽の出す熱とどういう関係なのか当時の人は知らない。ケルビンとヘルムホルツは太陽の収縮からでる熱量によって太陽活動を説明しようと試み、太陽の寿命は2000万年という結果を出している。宇宙の元素のうち27% がヘリウムとして存在しているので、宇宙の物質のかなりの部分は不活性気体だという言い方もできる。

話を暗黒物質にもどす。現在宇宙のなかにあるエネルギーのうち74%がダークエネルギー(宇宙項)で、22%が暗黒物質、残りの4%が我々を構成する原子だということがわかっている。宇宙の中にある物質をならすと5/6くらいが暗黒物質というのはちょっと気味が悪い話ではある。これはきっと素粒子でわれわれの周りをとびまわっているんだけど、我々はそれに気がつかない。地球周辺では、暗黒物質の速度は平均的には230Km/sくらいだと思われていて、質量密度が一立方 cm あたり陽子 0.3 個分くらいはあるはずなんだけど、それってどういう事か、例えば、自分の体を一秒にどのくらいの量が通り抜けてるか、計算してみるとかどうだろうか?

追記以前に半分だけかいたものを編集してアップしました。
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by mihoko_nojiri | 2010-07-14 18:28 | 宇宙物理

タコのパウルと素粒子実験

ドイツの水族館のタコのパウル君が、WCサッカーの試合結果をぴたりとあてたというので、タコの予言者だの、タコ入りサラダだの、タコの知能は3歳児なみ(?)とか、いや、タコの卵の生存率が 4万分の1と考えると、パウル君のこれまでのタコ生のラッキー度は、占いをあてるより断然すごいのだ、、、、、だの、引っ張る引っ張る。

なぜこのタコがこんなに試合をあてるのか、「タコは予言者」じゃないなにか合理的な理由(視覚とかタコの癖とか)を探そうとするというのは、かくゆう私もいろいろ考えたんだけど、今日はそういう質問に意味があるか、ということを考えてみたい。

毎回の占いでタコが正しい貝を食べる確率は1/2としよう。ドイツ7試合を占えば 1/128 の確率で全部当てる事ができる。これは低い確率かというと、100匹タコがいて、それぞれが7回占えば一匹は予言者タコが生まれても不思議はないわけで、実はそんなに珍しいことではない。この珍らしさの程度を我々の業界では標準偏差σ (シグマ)という指標で表す。ラッキー度、異常度、なんでもいいけど、この指標ではパウル君のラッキー度は1/128 、 2σよりは大きいけど、3σはない、という感じになる。3σというのは、3/1000 だの確率でしかおこらないようなことだ。で、タコを100匹あつめれば、一匹くらいは、予言者タコになれるという意味でこれは全然珍しいことじゃない。

素粒子の実験は量子力学で支配されていて、実験をするというのは、サイコロをふるようなものだ。粒子と粒子が衝突すると、未知の粒子が作られるかもしれない、けど、普通の粒子を作る普通の反応の方がたくさん起きる。だから、一生懸命サイコロを振る。。。。。素粒子の世界で「変な現象を発見した」というときにはだいたい理論値的な期待から5σくらい違ってないといけない、と決まっている。

5σ理論値とずれているというのは 0.00006 % の確率でしかおこらないような異常事態だ。タコのパウル君のこれまでの人生のラッキー度もはるかに凌駕している。一方で 3σは discovery では ない。(峠先生によると 4σを evidence という。)理論屋さんは 3σになるとかなり真剣にデータの意味について検討する。100%確立したとは言えないけど、もしかしたら本当かもしれないね、とみんなが思い出す基準のようなものだ。もっとたくさん実験をすると5σずれてくることもあれば、ふらふらと 2 σ以下に戻っていく時もある。最近は discovery でなくても 2.5 σ 3 σでプレスリリースをするようになったし、ネットでいろいろな話もきけるようになったから、3σレベルで非専門家の目に触れるようになってきた。でも大事な事は、300個違う測定をすると、一つぐらいは3σずれたことが起こるということだ。私の20年の研究職人生で 「3σあったけど、結局(略)でなんでもなかった実験」、っていうのは、ちょっとかぞえただけで(略)。タコのパウル君ももう寿命で引退ってことらしいけど、もっと占ったら余計に間違えたりして、結局1/2の確率に近づいていくかもしれない。

一つ前のナショナルジオグラフィックの記事 “神の粒子”は5種類あるという新証拠"
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20100617001&expand

というのはまさしくこの3σの現象の一つをあつかっている。 アメリカのTevatronという加速器 の D0 実験でおこった変な現象だ。 B 中間子と反B中間子という粒子がつくられたときに、それそれ、粒子は反粒子、反粒子は粒子にと変わっていくんだけど、このに CP の破れという効果がはいって、ちょっとだけ粒子ができる方が反粒子ができるよりお得になる。このお得になった結果が、素粒子模型の予言と違う、という話だ。でもこのままではまだ本当に変なことが起こっているか確かなことは言えない(言ってはいけない)。本当におかしなことが起こってるというためにはもっと長期間実験をするなり、もっと効率よく粒子を作るなりして、ただのタコか明石のタコかを見極めないといけない。

こういう3σの在庫は KEK の実験でもいくつかあって、プレスリリースをするたびに僕らは結構神経質にそのことを説明するんだけど、伝わっているのかいつも心配なんだ。

追記 割り算まちがってて、 8回占うと 1/256 だったんだけど、それ直すと細かい数字全部なおさないといけないから、ドイツの試合のみ、ってことで。
追記2 峠先生から Evidence は 4sigma じゃいというおしかりを頂いたので、修正
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by mihoko_nojiri | 2010-07-13 00:09 | 物理

陽子の大きさが小さくなった、について。

昨日話題のナショナルジオグラフックの記事( http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20100708001&expand ) について。

陽子のまわりに電子をまわすかわりにミューオンという電子と似た素粒子を回してみる。量子力学によって、ミューオンがとれる軌道は離散的な値で決まっていて、実験はその軌道で決まるエネルギーレベル間をミューオンが動いたときにでる光をはかった。で、この結果で「電磁気学を使った計算結果と違っていて、電子が回っているときとミューオンが回っているときで、陽子の大きさが違っている。これはすごい発見で電磁気学のほころびがみつかったかもしれない」、とこう読めるように、このナショナルジオグラフィックの記事には書いてある。

でも、Nature news http://bit.ly/aOnbGo だの,実験グループのプレスリリース(http://bit.ly/bhvfLP)だのをたどっていくと、だれも電磁気学に疑問を呈していないことがわかる。そもそも、これは結構難しい研究なんだ。陽子っていうのは素粒子じゃなくて、クオークがグルーオンでくっつけられた泥団子みたいなものだ。クオークは、閉じ込められて、陽子の中でぶんぶん回っている。クオーク自体は 2/3 とか-1/3 とかいう中途半端な電荷を持っている。その分布は第一原理で計算できるものじゃなくて、実験で決めないといけない。電子やミューオンはマイナスの電荷をもってて、陽子は全体として+の電荷をもっていて、太陽をのまわりを地球が回っているように電子は陽子のまわりをまわっている、それが水素原子。電子は素粒子で点とみなせるけど、陽子はぶよぶしている。

理論計算でこの「ぶよぶよしたところ」を取り込んで計算すると、ミューオン原子のレベルにぶよぶよ度の依存性がでるらしい。(〜でる。といってもいいけど、ハドロン物理の専門家じゃないから、遠慮しとく。)さっきもいったけど、クオークの出てくる部分の動きを決めてるのはグルーオンによる強い相互作用で、理論的に計算するには相互作用が強すぎて難しい。このすっきりしない理論計算に、 Nature の記事で報告されているミューオン原子(ミューオンが陽子のまわりをまわっている原子)のレベル差を代入して、陽子の大きさを計算するとある値が出る。この値は、電子を陽子にぶつけて計った陽子の大きさと4% 違っている。それで陽子の大きさ、というタイトルになるけど、理論計算の難しさをかんがえたら、このぷよぶよ部分の計算でどっか間違えていると思うのが、まあ普通の素粒子原子核物理の研究者が考えることだろう。実際先ほどの Nature news をみると

" In both hydrogen and muonic hydrogen spectroscopy, long, detailed QED calculations are required to produce a proton size from the experimental data. Pohl et al. have detailed more than 30 terms in the derivation of the equation linking their transition-energy measurement to the proton size. In calculations of this complexity, the possibility of error always exists with a magnitude that is hard to determine. "

つまり、計算も複雑だし、理論的な計算の誤差がどうもよくわかりません、みんな考えてください、というものに近い。

この論文のポイントは、電磁気が破綻しましたぁ(電磁気はおそらく素粒子物理ではもっとも精度よく検証されてる理論なんだけど。。。)とかじゃなくって、レーザ技術を工夫していままでは計れなかったミューオン原子のレベルをはかれるようにしましたということだろう。ミューオンって安定な素粒子じゃないから、陽子をなにかにあてて作ってあげないといけないし、それをさらに陽子の周りをまわるようにしてやって、さらにレーザーあてて、、、つまりそんなに簡単な実験じゃない。一方、理論研究者は計れそうもないものはそんなに真剣に研究しない。今回データもでてきたことだし、これからさらに検討して、落ちてる効果を見積もってくれる人もいるだろう。

この記事、というかナショナルジオグラフックのような一般誌の問題は、「すごい発見があったかもしれない」とにおわせないと読者が関心をもってくれない、という脅迫観念なんだろうと思う。実験の工夫や、理論の中で、どこがしっかりわかってる部分で、どこに問題がありそうかを説明するより、みんなの知ってる電磁気学が否定される、とか陽子の大きさが違っていた、という方がみんなの関心をあつめそうだね。ちゃんとした研究を紹介するとトンデモっぽくなっちゃうのが、困るなぁ。これどうした、って twitter で聞かれてあわててこんな文章書いてるわけだけど、元の記事よりおもしろいかな?


最後に togetter にリンクをはろう。 陽子の大きさが小さくなった! http://togetter.com/li/34432

追記 早野先生よりこの実験は15年失敗続きだったというポストがあった。実験はレーザーでミューオン原子を励起させてその励起状態から電子が落ちてくるときに出る光をみる。レーザーはエネルギーが決まっていて、見たいレベル差がその値とどんびしゃでないと効率よい遷移が起きない。この場合ミューオン原子のもともとの数が少ないので、効率よく叩き上げないと見えないのだと思う。実験屋さんにしてみると「理論計算が間違っていて苦労したんだよ」というのは強調したいポイントかも。
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by mihoko_nojiri | 2010-07-10 17:53 | 物理

physics at LHC
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