油断するなここは戦場だ

カテゴリ:社会( 2 )




医療と被曝測定

相馬、南相馬の医療について新聞や web の最近のエントリーが気になっている

その中の一つは、10月18日版の毎日新聞の記事再 「医師不足 行き場失う相馬の患者 県、病院整備に調整力欠く」という毎日新聞の記事である。
(http://senkyo.mainichi.jp/news/20141018ddlk07010341000c.html)

この地域の医療について、耳鼻科、小児科、産婦人科が極端な不足、相馬病院での耳鼻咽喉科常勤医の退職の話、相馬、南相馬の両市立病院はには地元医師会からの統合の提言があるものの検討されず、医師確保ができる体制を作るきっかけがつかめていないことが指摘されている。また別の医療関係者のブログによると、地域全体で産科医3名小児科5名ということだそうで、南相馬市と相馬市の人口をあわせるとほぼ10万人、年少人口比率(南相馬で11% ) に対して、相当に小さいことが指摘されている。http://www.city.minamisoma.lg.jp/index.cfm/8,2740,44,html
(全国平均は小児科従事医師数は15歳未満人口10万に対して180人、産科は 14~49歳人口10万に対して38.7 人である http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/06/kekka1-2-4.html )
子供のいる世代にとって、産科、小児科、耳鼻咽喉科は必須といってよく、全国比率にくらべて医師の配置が極端に少ないのであれば、若い世代が生活の拠点をおくことはためらわれるのではないだろうか。


前回のエントリーで、この地域は(健康上必要とは思えない)放射能測定体制がとられていることを述べたが、その一方で生活の根幹をなす医療インフラが極端に不足しているなら困ったことだ。

平成26年度の南相馬市行政経営方針に住民アンケートの結果がある。この中で「生活の不安、心配」という設問についてはたしかに放射線による人体への影響がもっとも回答数の多い項目にあがっている.(http://www.city.minamisoma.lg.jp/index.cfm/8,15792,c,html/15792/20131202-164010.pdf) 市の放射能対策の一つであるWBC 事業が推進される背景だろう。WBC 事業の南相馬市の中での位置付けは高く、測定結果は市のトップページからリンクされている。受診者に対するアンケートでは、ほとんどの受診者が年に一度あるいは半年に一度の受診を希望していることから、市は今後も事業継続が必要であり、「自分の健康を守るために積極的に受診するよう」に呼びかけている。
( http://www.city.minamisoma.lg.jp/index.cfm/10,21095,61,344,html )

しかしアンケートを詳しく見ると実際には学童の検診の受診者がほとんどで、成人の受診者は案外少ない。2013年5月15日の東洋経済オンラインによれば WBC 事業は一旦受診者が大きく減少し危機感を抱いた坪倉医師らの働きかけで、小中学生について年2回のWBC検査を受けるシステムがスタートしたとある。(http://toyokeizai.net/articles/-/13925)
成人の受診者は半期で2500 人程度で、市民の大半は WBC を受けていない。そして受診しないという判断は特に間違っているわけではない。現在の内部被曝の現状をみれば、健康を守るために積極的に受診する状況ではないはずなのだ。

ここで、問題になるのは、調査の結果わかった検査の必要性の度合いと、医療機関及び行政による検査の「熱心さ」、医療機関のもつ本来のタスクとの間のギャップや相互矛盾である。

学校での各種検診、職場や行政における検診事業で検査される項目の多くは、健康に影響のある重大な病気を早く発見し治療を行うことを目的としている。たとえばありふれた尿検査一つによって、検診をうけた人の腎臓の機能の異常を早期に発見し、治療を始めることができる。検診はそのメリット、デメリットを評価されて選ばれてきたものだ。「健康のために検査を受けましょう」というフレーズはここではもちろん妥当だ。

内部被曝検査の位置付けはこれらの検診とは全く位置付けがことなる。福島における内部被曝の状況はほとんどすべての人が年間の天然の放射性物質による内部被曝を2桁下回るレベルであり、流通する食品のレベルが現状にあるかぎり、健康上の目的で実施する理由はない。もちろん、市民の間に放射能に対する風説が根強くあるのであれば、ホールボディカウンターによって内部被曝の測定し、少ないことを確認することは、行政サービスとしての意味はあるだろう。つまりこれは「医療」や「健康診断」ではないのだ。医療機関や、専門性の高い教育を受けている医師、看護婦などが関わってこれらの事業を行うことは、(特に医師、看護師が不足している状況では)医療資源の浪費に見える。


なぜこういう事業に予算がついているのだろうか。私はBABYSCAN などの超精密測定に予算がついたことから、騒がれやすい内部被曝が0であることを立証することことで、市外にいる避難者の不安を解消することが期待されているのではないかと想像している。実際、南相馬市では小中学校の在籍者数は未だに住民票登録の70% 程度にとどまっている。 (http://www.city.minamisoma.lg.jp/index.cfm/10,13412,58,html )
しかし、過剰にこれらの検査の重要性を強調することで、現状や今後の内部被曝の影響について、市民に誤解を与えることはないだろうか。

前回も触れたがアピタルの坪倉医師による文章から垣間みえる内部被曝に関する市の体制や個人への指導は不思議だ。学校でのWBC は年二回行われているが、流通食品がほとんど汚染されていないときに、半年で内部被曝が変わるような食品の摂取状況が想定できない。内部被曝が検出されると外来受診を勧められるようだが、0.1mSv の内部被曝は病院の通常診療のリソースを割いてまで外来診察をうけるべき事象ではないように思う。また、健康に問題ないレベルであるという文言と、それにもかかわらず測定を受けた人の生活スタイルに介入しようという行為は相互に矛盾している。


長期的には医療インフラは何に使っていくべきだろうか。同じ行政経営方針に記載されるアンケート結果で「力を入れるべき施策分野」として住民があげているのは、 医療・健康・福祉である。医療上の重要課題は老人医療で、南相馬市立総合病院には脳卒中センターの建設を中心とする市立病院の拡充計画がある。(http://www.city.minamisoma.lg.jp/index.cfm/8,16582,c,html/16582/nosocchu260122.pdf)
また看護婦の不足も深刻で、病院機能の復旧の障害にもなっている。そういえば病院のホームページをみると小児病棟も震災で閉鎖されたままだ。子供が病気になったときに病院で長時間待たなければならない一方で、低いレベルの体内放射性物質の測定を頻繁に病院で行う事業は客観的にみて異常だ。せっかく3年にわたって市民を測定し、この結果がまとめられているのだがから、その検査結果が今後の事業計画に適切に反映されていくことを祈っている
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by mihoko_nojiri | 2014-11-20 15:24 | 社会

ホールボディカウンターは必要か

Twitter から早野、糸井本についていろいろRT されてくるのだが,ホールボディカウンターについての
最近のあれこれについては,あまり良い印象をもっていないので,やや複雑な気持ちでいる。以下に書く事は、すでに何度もツイートしたことだが,今一度まとめて書いておく。

ホールボディカウンター(WBC)は人間に体の中に蓄積されているセシウムなどの放射性物質を計るための装置で,かなり高価な機具だ。震災直後の2011年の中頃には,twitter を経由して,あり得ないくらい大きい誤差と高い中心値をもつ体内のセシウムの測定結果が twitter を経由して持ち込まれてきて,その意味合いについて深刻な相談メールで受ける事が何度もあった。初期の測定が正しくないことは,体内に存在するカリウムの自然放射能が正しく測れていないことから,すぐにわかった。当時は空間線量が高く、これが測定にかぶったこと,またそのような状況に対応していないソフトしか持たない古いWBCが多かったことに起因した問題だった。

その年12月に,福島の市民測定所にあるATOMTEX の椅子型のWBC が,体内カリウムの自然放射能がきちんと測れるときいて,早野氏と見学にいったが,この装置も,高い環境からのバックグラウンドに耐える校正がされていないことがわかった。これは,校正用のファントムが同時に購入されなかったという,アクシデントによるもので,測定器のせいではなかった。ATOMTEX のの内部ソフトは,「なるべくシンプルな装置で,健康に影響のあるレベルの放射線量を測定しよう」という工夫が随所に感じられて,私はだんだん,この装置が好きになった。市民測定所の人の話では「価格は400万円くらいだが,個人が買って市民測定所に寄付されて,どう扱えばいいかむずかして困っている」ということで,えー何それ景気いいな,と驚いたが、当時は原発災害に対する危機意識が高く、こういう「緊急の決断」をした人はたくさんいた。

ATOMTEX のWBC は成人の体内に1000Bq/body くらいの放射性セシウムががあれば確実に計ることができる。1000Bq/body は内部被曝の量にして0.1mSv body/年 で,自然放射能による内部被曝をはるかに下回っている。自然放射能よりもはるかに低いレベルの放射性セシウムを測定する意義はそもそも薄い。成人で1000Bq/Body のセシウム内部被曝がはかれれば公衆衛生上は十分で,1mSv/body/年 に対応する2万bq/body 近くなれば,あるいは保険指導を行う必要もあるだろう。もしも,多くの人が多数の内部被曝をしているのであれば,低価格な装置を広く普及させることが重要で,このベラルーシの椅子型WBC も十分に意義がある。

一方で日本の現状は,ほぼすべての方がこの椅子型では測定できない程度に低い内部被曝しかしていない。しかし,椅子型WBC よりもさらに微小な内部被曝を測定できるキャンベラ製のFASTSCAN という高価なWBCが福島県内に多数購入され,あちこちで運用された。当時は誤差以下の中心値でもすごく心配する方はたくさんいて,高精度の装置のほうが結局めんどうがないということもあったのだろうと思う。装置は一台数千万円かかるが,現在では福島県内で,30台以上の FASTSCAN が運用されているはずである。かならずしも有益なお金の使い方とは言えないが,1000Bq/body 程度でも健康に影響すると主張する団体もあり,実際の内部被曝がそれ以下であることで安心できるなら利点もあるかもしれないと特に気にとめてはいなかった。

内部被曝測定を行っている医療機関に風向きがおかしいところがあると感じ始めたはの 2013年になってからである。この時期は福島県に在住しているほとんどの人の内部被曝が低いことが明らかになっていて,段階的にWBCによる検査が縮小できそうな時期であった。もちろん,一部には内部被曝が年間1mSvを越える人の報告もあったが(主に山菜や野生動物をたべたい年配の人である),健康上大きな問題が生じる理由がない以上、それに干渉する必要はない。流通食品の放射性物質の量は低く、普通に生活している人が健康影響をうける可能性は全くみられなかった。震災直後に多くの医療機関で内部被曝の測定をはじめたが,内部被曝検査は病院の活動から切り離して,より緊急性の高い地域医療の問題に集中するべき時期がきていたのである。仮設にすんでいるお年寄りの健康状態や,震災でより加速した高齢化、医師不足,看護師不足など,人間の生命に直結する緊急の課題は多数指摘されていた。実際、医療と内部被曝測定の分離が行われたところはあって,たとえばいわき市の磐城共立病院では震災直後からFastscan を市から貸与されて測定を行っていたが,現在装置は移設されて保健センターで運用されている。

一方で健康に全く問題のないレベルの放射能しかが検出されていない場合でも,医師の指導による個人への介入が行われる状態が,少なくともいくつかの医療機関では続いている。私のTL によくRT されてくる坪倉氏のアピタルへの寄稿

(例えば、
《57》 検出限界を考えない運用だった - 内部被曝通信 - アピタル(医療・健康)
《41》 糖尿病治療に似る被曝の診療 - 内部被曝通信 - アピタル(医療・健康)
《96》 個人の問題とコミュニティー全体の問題 - 内部被曝通信 - アピタル(医療・健康)


をみると,ひらた中央病院や,南相馬総合病院では 20Bq/Kg で積極的な介入が行われており,かつこの介入レベルで再診におとずれなくなる人がいることを,保健指導に協力的でない糖尿病予備群の問題と同等であるかのように語っている。

このアピタルの記事は論旨が随所に飛躍していていて,ご本人の意図するところがつかみにくい。しかし,糖尿病などの生活習慣病は悪化すれば重篤な結果を引き起こす病気であるために,指導が必要なので, 微小な内部被曝と比較することは妥当だと思わない。また,いわき市の常磐病院の報告をみても,検出限界ぎりぎりの例に対して、再検査を行う運用を行っているようである。流通食品の放射能が低く抑えられて内部被曝が増える恐れがないにもかかわらず,これらの医療機関のホームページや,その関係者が,今後も測定を続けることが重要と結論づけていることに,違和感を覚えている。(最近の坪倉医師監修のパンフレットにもそのような記述がある。)

BABYSCAN については,ひらた中央病院とこれによって設立された震災復興支援放射能対策研究所の要望によって開発することが2013年4月に発表され,早野氏のTL で怒濤のような関連ツイートが始まった。幼児は体が小さいことから,FASTSCAN ではセシウムの測定は難しい。しかし本来、幼児が親と違う食品をたべることはまれで,同じ家庭の大人を計っていれば家族的な内部被曝は把握することができる。測定の必要はないが親の要望が高いから計りたい,という趣旨だと早野氏は説明された。

このBABYSCAN の納入時の記者会見の後に、設置に関わる金銭負担について早野氏に質問した。すると彼が「震災復興支援放射能対策研究所は月に1000万円以上の赤字と記者会見でいっていた」とさらっとツイートしたので,総毛だつような気持ちになった。しばらくしてある雑誌記事でもひらた中央病院の理事長の発言として,研究所に6億程度の経費がかかってると紹介された。この研究所にある,FASTSCAN とBabyscan の購入設置だけで2億程度はかかっていると考えられ、(南相馬のBABYSCAN は購入設置に2億かかったと新聞報道がある)2012年から2万人程度の人を測定して,一人あたり数万円の経費がかかっている計算になる。このような体質は,研究所本体の継続性や,関係する医療機関や介護施設の運営に影響を与えかねないと危惧している。

なお,この研究所はエコーならびに6種類の血液検査とヨウ素濃度の測定を含む甲状腺の無料検査も行っている。(これは福島県の甲状腺検査で,エコーによるスクリーニング検査で再検査となった人に行う検査と同じ内容である)これらの検査にかかる費用は,一人あたり1万円程度で,検査実施数に比例したコストがかかる。前段に述べたように毎月多額の支出超過があるのであれば,6つのマーカー全ての検査をしなくてもいいのではないかという疑問を持った。(例えば、甲状腺専門病院である野口病院のホームページには甲状腺スクリーニング検査の解説にマーカーの最小単位として,free T4 とTSH の2つをあげているので,県と肩をはらなければ,一人あたりの費用は低下する)研究所は甲状腺検査結果を研究報告も行っているため,6つのマーカーは研究目的で取られたと考えることもできる。しかし,成人女性の甲状腺疾患は頻度が高く,原発の影響をはかる研究対象として妥当なものとも思えなかった。この研究報告については,いろいろ雑な面がみられるのだが,この記事はもうかなり長くなったのでまた別の機会にしたい。ともかくいろいろ謎なのである。

病院、医師、看護師の社会的責務は医療であり,放射線による内部被曝のリスクは,それらに比べて低い。(実は多くのところでは,追加の外部被曝のリスクに比べても低い)上に指摘したような医療機関の現状は,震災初期に放射能対策をはじめた医療機関が「緊急時の決断」の継続性を重視して活動していることを示している。一方で内部被曝のレベルは,当初危惧されたレベルとくらべて遥かに低い。内部被曝測定の労力やコストに対するアウトプット(たとえばBABYSCAN の時に強調される”お母さん”の安心とか)と同時に,その同じ資金が他のプロジェクトに使われた場合に何ができたかを比較して,放射能対策が相対的なリスクをふまえて妥当な範囲にとどまっているかを見直す必要があるだろう。

私がここで述べた意見と,現場の医師の認識はおそらく違っていて、検査を受ける人達への説明にも医療機関の意向反映されているだろう。内部被曝が心配な人が測定を受けるのは良いことだと思うが,通知が来たからいくという人も多いはずだ。子供に検査を受けさせる為には,仕事をもっていれば,仕事を休んで連れて行く必要があるし,子供をつれて病院にいけば,別の病気を拾う可能性もある。「野草や,猪を食べなければ,わざわざはかりにくる必要はないですよ」と言ってくれる人がいてもいいのではないかと思うのだが,どの病院のホームページにいっても,健康のために測定を,と書いてある。一旦構築された検査体制は,実際に不要かどうかではなく,現場の人達が不要と思うまで続けられるのだろう。

蛇足になるが,WBC検診車は今年も福島から避難している人に対して派遣されていて,放射能の影響の全くない県に住んでいる人でもWBCを受けることができる。もちろん、何も検出されるはずがないのだが,福島県のホームページをみても「うけなくていい検査」とはかいていない。これも似たような問題だ。

内部被曝の影響が低いにも関わらず、BABYSCANが 三台もが福島県内に設置されたのは,本当にいいことなのだろうか?ネットの意見は無料検査に対して優しい。援助が必要な人の負担は少ないように見えるからだ。しかし,実際にはすべての検査に人的、金銭的なコストがかかっていて,それは誰かに負担されている。その影響が可視化されていないことがとても不安だ。

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by mihoko_nojiri | 2014-10-12 23:31 | 社会

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