油断するなここは戦場だ

カテゴリ:物理( 23 )




腐葉土のセシウム

先日より 話題の腐葉土の動画と同じ商品『バーク入り腐葉土』を @daizo3 に送っていただきました。これをKEK の放射線センターの岩瀬さんにLaBr3 のスペクトロメータで計っていただきましたので、写真をいくつか
アップします。

頂いた腐葉土ですが、袋にNaI シンチレータを密着して計って 0.4μSv/h 表面線量がありました。KEK の空間線量は 0.1μSv/h ですのでかなり大きな値になります。
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スペクトルの測定結果も写真の通りでセシウム 134 と 137 のつくる 3つのピークをかなりはっきり見る事ができます。KEK では Bq/Kg を計るセットアップはありませんので、今後は行政の調査をお願いしたいと思いますが、関東圏で土壌改良として使うのに適切なものとは言えないでしょう
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放射性物質が落ちてきたとき、草や落ち葉はそれをたくさん抱え込みます。下の写真は KEK で保管している福島某所の落ち葉のスペクトルです。腐葉土と同じところにピークがありますが、バックグラウンドとくらべて相当はっきりしていて、かなり多くのセシウムを抱えているのがわかると思います。実際、落ち葉をどけると線量が大幅に下がる場合も多く、植物の剪定や落ち葉の除去はチェルノブイリの除染の項目としてもあがっています。
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汚染された植物を堆肥等にしたり、自然のままに放置して、地面に返してしまうと、土壌汚染として長く残る事になります。今年しかできないことですので、ぜひ集めて、環境に出ないきちんとした処理施設で処理していただきたいと切に願っています。

# 関連リンクとして、この腐葉土を作られた業者に問い合わせの電話をされた方のブログにリンクをはっておきます。リンク YouTube の動画もここから見ることができます。
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by mihoko_nojiri | 2011-06-28 17:02 | 物理

ガイガーカウンターミーティングのスライド、グラフ等

ガイガーカウンターミーテイングの時不評だったスライドですが、校正会の画像等もいれて、分かりにくかったと思われるところに大幅改定をいれてアップします。

スライドへのリンク

かんたん version
@minai_maya さんの「猫が語るまとめ」
1page
2 page
3 page
4 page

他の方の講演スライド 
一宮さんのスライドが ここにあるようです。  ppt, pdf.


マニア向けデータ

#611GCM 校正会のデータは  こちら にあります。

○RADEX の測定結果のみ にしたもの
○校正会総ての機種について図にしたもの。(石原さんのツイート)
測定値分布図 - 611GCMでの線源から60cm位置での計測結果のヒストグラム。校正済みのアロカTCS-171の測定値を矢印で示す。赤がシンチレータ式、グレイ塗りつぶしがGM管式、黒実線が合計を表す。」
○MUSEE_M さんによる分布図と中央値 0.1 標準偏差 0.05 の正規分布曲線を重ねたもの。60 cmのデータがある41台分

他にも資料ができましたら、順次 up していこうと思います。

#(6月19日)図の一部が宇都宮氏のサイトからの孫引きでしたので、削除してURL に変更しました。氏のサイトはかなり詳しいガイガーカウンターの解説+自作サイトになっているようです。

# 内容を確認したわけではないのですが ここものガイガーカウンターの記述もまとまっているようです。
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by mihoko_nojiri | 2011-06-18 23:35 | 物理

絶対にあってはいけない被曝。

今日大変残念なニュースを聞きました。

作業員の方が2名150mSv超の被曝をされ、しかもその原因が β(ベータ)線熱傷だったということです。被曝された場所は3号機の地下で、水もれした燃料プールから落ちた水であったため放射線濃度が高かった可能性もあります。

β線というのは原子核の崩壊からくる電子です。比較的寿命の長い不安定な原子核はこの崩壊をします。電子は電荷をもっていますので、比較的簡単なもの、例えば薄い金属のはいった装備で簡単に防ぐことができます。ところが、この作業員の方は「くるぶしぐらいまでの靴を履いて深さ30センチの水につかって作業をしていた」ということだそうです。β線は比較的早く止まるので、被曝しても通常のガンマ線カウンターでは検出できず必要な退避行動ができなかったと考えられます。

これが意味することはいろいろあります。まず装備が十分ではありません。プールから来た水の可能性があり、危ないから引き返す必要があるという、基本的な教育がされていません。放射線の特性も、どこが濃度が高い可能性があるかも、知らされていない、あるいは、予想されていません。そして、現場にある危険を事前に警告する専門家がいません。作業員の方の努力はメディアで報道され、国民のみなさんが無事を祈っているこの状況で、このような状況は絶対に許されないことです。

東電は緊急に作業員の安全を確保されること、また国が万全の支援体制を国内に作ること、また外国から
専門家のアドバイスをうけて、受ける必要のない被曝をされることがない体制を作ったいただきたいと思います。
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by mihoko_nojiri | 2011-03-24 21:20 | 物理

「福島原発の放射能を理解する」の翻訳へ頂いたコメント等につきまして

昨日公開しました、 Monreal 氏の講演(「福島原発の放射能を理解する」の翻訳については、いろいろ不安もあったのですが、昨晩はおおむね肯定的な反応をいただいており、一安心しているところです。

まずこれを翻訳した動機について述べます。このスライドの特徴として、21ページ目から段階をおって、炉心損傷がすすんでいくところをわかりやすく示しているところにあると思います。現在の炉の状態は24ページから25ページに進むことを阻止しようとしている段階と理解できるでしょう。燃料そのものに着火するほど温度があがると、環境に長期的にのこる核燃料が出るので、それを防ぐための作業が行われていることが、わかりやすく書かれていると思います。また26ページのチェルノブイリ事故とくらべると、遥かにコントロールする可能性があることも分かります。

もう一つこのスライドの良い部分は、物理現象、生命に体する危険、炉の状態、今後の予想までがコンパクトに入って短いことだと思います。地震からすでに一週間たち、ネットや新聞紙上にいろいろな解説がされています。ここに書かれている情報は、すでにいろいろなところで目にされていることばかりですが、一つの講演に収まる分量での解説も重要であると思います。一方講演スライドであるが故に記述が簡単化され問題があるのではないか、というご指摘もいただいています。講演は本来話者との対話と一体として考えられるべきもので、記述の不足は講演の中で修正されるべきものです。本来の講演のよさを残すためにこのまま残しますが、改めて、これだけを判断の材料をされるのではなく、詳しい資料のにあたるための糸口として使っていただきたいと思います。尚、このサイトに英語ですが講演の音声があります。

いくつかいただいたコメントについて私なりのお答えをしていこうと思います。内部被曝の重要性について記述がない、あるいはヨウ素、セシウムについての記述が十分でない、プルトニウムの化学毒性について、といったコメントは頻繁にいただいています。ヨウ素は甲状腺への蓄積があり、チェルノブイリでは小児ガンの増大が問題になりました。これについては事前にヨウ素剤を飲む事で防御可能です。セシウムは体内蓄積はありません。(追記 長期の体内蓄積とするべきだと思いますが、かなり前の記述ですので残してあります。尚、現在ヨウ素はなくなり、主にセシウムが内部被曝の主要原因となっています。11/9 2011) 一旦摂取すると100〜200日程度体内に残りますが、危険度はヨウ素よりも低いと考えます。講演スライドであるということから大幅な加筆は必要ないと考えています。またこのスライドについては、原発近くの危険な環境で現在作業する方は、長期的な復興作業の詳しい解説を意図したものではなく、プルトニウム等についての記述も大幅に増補注釈をつける必要なないと考えています。より詳しい解説は他のサイトをあたって頂ければと思います。

放射線の危険性の記述が軽すぎるのではないか、というご指摘も多くいただきました。このスライドでは大きく健康に影響のある値を基準にして議論がすすめられていますので、逆の立場から説明してみたいと思います。平均的な自然放射線は 2mSv/year 程度で、一時間あたりにすると 0.2μSv/h になります。この 前後で放射線の数値が増大しているうちは、特段の対策は必要ないと考えられます。胎児に何らかの影響がみとめられる量は年間50mSvだそうです。たとえば原発の今の状況が100日程度続くと仮定すると、20μSv/h 程度が続くような状況は大変問題であると考えています。福島県では原子炉から50Km離れた福島市で、一日以上 20μSv/h 程度の線量が続くということがありましたし、また30Km圏内のすぐ側で、100μSv 程度の線量を維持してる場所が複数あります。現在はかなり下がっており、また、文部科学省で測定を継続されているようですが。(茨城県でも継続して測定されています)さらに強化・継続していただいて、確実にリスクを下げることが重要です。

リスクには個人のリスクと公衆衛生上のリスクがあります。個人的な発ガンのリスクが1%あがることは10万の人中1000人の発ガンを意味することになります。(それでもタバコの公衆衛生上のリスクよりは低いですが、) リスクをどの程度にとどめるべきかについては、国民的な理解とコンセンサスが必要です。それがスライド最後の「放射線量を計って決断しなさい」ということの趣旨であると思います。

再臨界するのではないか、というご質問をよくうけますが、これははっきりいって手に余ります。沸騰水型の原子炉は水を使って中性子を減速させ、核子に取り込まれる確率をあげることで臨界となる炉です。臨界(ウランから出る中性子が次の反応を引き起こす)するには、中性子が外にでることができるように)細い形状の燃料(の間に隅々まで水をいれ、となりの燃料に効率よくとどくようにしなければなりません。制御棒が突然おちて臨界になっても水がなくなれば反応が止まります。さらにスリーマイル島では燃料が圧力容器の底にばらばらになってたまる状況になりましたが、臨界には達していません。これよりさらに悪い状況を仮定した時に何がおこるかは原子力関係者の分かり易い公開講演等を期待したいと思います。そもそも、講演をされた方、翻訳者も、素粒子、原子核の理論・実験の研究者です。つまり、原子核の個々の反応については詳しく、関係書籍を読めばそこを踏み越えた部分についても多少言及できる知識はもっておりますが、原子炉内の工学的な問題について「絶対」おこらない、あるは起こりうる等の発言はできませんので、その点ご理解いただきたいと思います。MOX についても同様です。

最後に,大きな変更を伴うご提案をいただいていますが、元の講演の内容から大きく変更することは「翻訳」の趣旨からはずれます。大きな改訂を行うことは考えておりませんので、なにとぞご理解頂きたいと思います。また意図的に訳出しなかった部分があります。「石炭燃料を燃やす事による放射能拡散のリスクの方が高い」という文章は講演中の笑いを取るためのテクニックとしては良いかもしてませんが、不謹慎とも思われるので省きました。(「運転中の携帯電話の操作リスクの方が高い」という文面も今は訳出していますが私はとりたいと考えています。) もとのスライドの誤植、明らかな誤訳についてのご連絡を頂いていますので、そちらについては早急に確認したいと思います。

(以下3/20記載)
#多数ご指摘いただいたのですが、スライド内の放射線障害をおこす率についての数字に不適切な部分があり、ご本人の了解のもとに改訂したものを作りましたので、そちらをご覧ください。このブログにおける私の意見も参考にしていただけると幸いです。

##内容が刺激的だから削除してはどうか/楽観的すぎるから削除したらどうか等いろいろな方向から編集すべきだという意見をいただいていますが、すでに20万以上ダウンロードされおり、大きな編集はしない予定です。私の放射能に体する考えは彼のものと違うことは、私のブログの内容をみれば分かっていただけると思います。「大衆は間違った判断をするから意見は公開しない方がよい、というご意見も多いように思いますが、私がtwitter 上で見た範囲では一つの意見として受け止められていると考えています。特に日本の科学者からの発信が少ないと感じており、今後科学者からのご意見は私個人宛ではなく、ブログ等で社会発信して頂くようにお願いしたいと思います。

###私自身の原子力発電ついての意見をいってほしいというコメントもいただkましたが、現状は根拠のない不安流言にたいしてできるだけ順序立てて放射能のことを解説していくのが重要と考えています。原子力発電、科学の意義等についてのコメントはとりあえず承認しましたが、以後のご議論等は場所をあらためてやっていただけるようお願いします。
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by mihoko_nojiri | 2011-03-19 08:45 | 物理

「見つからないって素晴らしい」

まじめな話はここまでにしてネタポスト。

「最初の一年で何もみつからないハドロンコライダー実験」ってのは実はとっても素晴らい。今LHC 実験データをみて感銘をうけるのは、「理論的な数値計算の予言と実験があっている。」ので新粒子にすぐに制限をつけることができることだ。

昔は ハドロンコライダー実験は現象がきちんと理解できないからといって毛嫌いすることが人が多かった。昔昔 UA** 実験というハドロンコライダー実験では事前に想像されていたいろんな粒子(含超対称粒子)を見つけたと言ってしまい、後から全部取り消しになった。今から17年ほど前、そう、SSC 実験が中止になる数日前に、ハドロンコライダー関係の会議のバンケットで、ある有名な理論の研究者が、居並ぶCDF D0 実験(テバトロンの陽子反陽子衝突実験)の研究者の前で

「明日はSSC の大事な投票の日ですが、
私はハドロンコライダー実験のデータは信じない」
(ママ)

と発言して、泣きたくなった記憶がある。実際SSC 実験が計画されていたころには、ジェット(クオークやグルーオン由来の粒子の束)の数が多くなるとまともな理論計算ができない状態で、 電子陽電子衝突をやっている研究者がその点についてことさらにつっこみをいれたりしたものだ。

このような状況が改善されたのが、quark が最終状態に多数あっても計算ができる ALPGEN , Sherpa, Madgraph などの数値計算コードの開発だ。このような計算が一般的になったのは、ごく最近、ここ5年ほどのことである。SSC 実験がもし予定とおり2000年に始まっていたら、実験と理論の差は大きくよくわからないものがたくさん発見されていただろう。

日本の実験グループはアトラス実験の中でもこのようなコードで計算できる高次効果を取り入れた BG の解析でリーダーシップをとっている。日本の理論でこの手のコードの最初のユーザーは私で(これは実験グループに触発されたところが大きい)標準模型のプロセスの計算だけでなく、超対称粒子の生成と同時にエネルギーの高い quark や gluon が同時生成かれる過程の解析(例えば Novel reconstruction technique for New Physics processes with initial state radiation. Phys.Rev.Lett.103:151802,2009.)は研究の一つの柱になっている。また今年の9月にはこのような先端的な数値計算コードのスクールが日本で開催される予定である。
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by mihoko_nojiri | 2011-03-09 22:44 | 物理

実験で見えないってどういうことか

twitter で@ipmu_supporter さんから Nature に 超対称粒子がLHC でみつからず、超対称性が素粒子にあるという模型が不利になっているという論調の記事がでていたということを伺いました。「 まだ時期尚早という気が門外漢からはするのですが、どうなんでしょう..?」というご質問ですが、まったくその通りです。

まず、LHC で超対称粒子が生成される率と粒子の質量によって全然違います。今回の実験で存在しない、とされた質量の領域はだいたい squark gluino の質量が700GeV~800GeV くらいのところまで、とされています。素粒子を発見するというのはどういうことかというと、多くの場合その粒子は走っているところを見る訳ではなく、それが生成され、崩壊してなにかの粒子になったところを観測します。もちろん一回一回の衝突で新しい粒子が生成される場合もあれば、すでによく知っている粒子を作る場合もあります。シグナルがなるべく見え易い事象の特徴を想定し、その特徴をもった衝突が何回おこったか想定します。それが、その粒子が存在しない場合とくらべて十分に多いかどうかで制限を決めます。

例として、ある新粒子が存在すれば20個期待され、存在しないときは10個期待される場合を考えてみましょう。素粒子の衝突というのは一回一回サイコロをふるようなもので、10個期待されるときに実際に観測されるのが7個であっても13個であってもそれは標準模型が違っていることにはなりません。一方で、観測されている量が20個であれば優位( 3σ)で標準模型と違います。逆に新粒子のみで20個期待されている時に、10個しか観測されていない場合、その新粒子が存在するということはだいたい 2.2 σくらいで否定されている、といいます。今発表されているlimit は 95% CL といわれこれは、2σに対応しています。

今回は超重力模型という超対称模型の一つを仮定して、700GeV~800GeV という数字がでています。これは生成率が "2pb"程度以下でないといけないということに対応しています。これは超対称粒子が 100個程度作られれば制限がつくけれど,それ以下では無理という意味でもあります。この質量より重い超対称粒子はLHCではまだほとんど作られていないので制限のつけようがないのです。ちなみに、LHC で top quark の生成断面積はこの100倍くらいあります。

超対称粒子の質量がこの制限以下で、たくさん作られていても、見えないということもあり得ます。この実験で探索している超対称粒子は安定なLSP (ダークマター)に崩壊します。このときにたくさんの粒子が作られますが、この粒子のエネルギーをあわせると作られる超対称粒子と LSP の質量の差程度のエネルギーは確実に出ます。バックグラウンドとなるプロセスはエネルギーの低い粒子しか出さないことが多いので、高いエネルギーの事象であることを要請してバックグラウンドを減らしています。しかし、質量の差が小さいと 超対称粒子から放出される粒子のエネルギーが小さすぎ、標準模型の粒子の生成が出す信号とかぶってしまいます。
こうなるといろいろ工夫しなければいけなくなります。

アトラス実験が制限を与えた超重力模型は標準的な模型の一つですです。非常に高いエネルギースケールで超対称粒子の質量が同じであると、我々が実際に観測する超対称粒子の間に大きな質量の差がでます。グルーオンの超対称粒子は重くなり、他のゲージ粒子の超対称粒子は軽くなります。クオークの超対称粒子が重くなり、レプトンの超対称粒子は軽くなります。しかし、理論的にはこのようになるべきという保証はなく、実際にある種の模型では、すべての超対称粒子の質量がほぼ同じになることが可能です。一番重い超対称粒子とLSP の差が30%くらいしか違わないとなんの制限もつかないだろうと言われています。(自分の論文で恐縮ですが Discovery of supersymmetry with degenerated mass spectrum.Kiyotomo Kawagoe,(Kobe U.) , Mihoko M. Nojiri, (KEK, Tsukuba) Phys.Rev.D74:115011,2006 など。)


アトラス実験では、特定の条件を要求したときに、新しい粒子由来のシグナルがいくつ以下にならないといけないか、という、より一般的な結果をだしていますので、超重力模型以外での発見可能性について理論の研究者でも比較的簡単に評価することが可能です。私の学生やPD にはアトラス実験の制限を積極的に取り入れるように指導しています。シグナルが見えた時に、現実的な状況のなかで自分の模型のシグナルがどのくらいの量でるか把握できることはとても大事なことです。今年は昨年の約20倍の陽子陽子衝突が期待されていますので、超対称模型に限らず新しい現象が見つかることを期待しています。
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by mihoko_nojiri | 2011-03-09 21:50 | 物理

恐るべき子供たち

LHC というのは陽子と陽子を衝突させる実験だ。陽子というのは、原子核の構成要素の一つで電荷1をもっていて、水素原子と同じものだ。LHC 実験ではとりあえず3500 GeV (ギガエレクトロンボルト=10^9 エレクトロンボルト)のエネルギーまで加速した陽子同士を衝突せている。ただしこれは「LHC での素粒子の衝突エネルギー」とはずいぶん違う

陽子は「複合粒子」といって、クオーク3つがグルーオンで固められたものでできている。クオークやグルーオンは素粒子(これ以上分割できない粒子)とかんがえられている。特にグルーオンは「強い力」を伝える粒子だ。
陽子と陽子を衝突させると、陽子のなかにいるクオークやグルーオン(纏めてパートンと呼ぶ)どうしの衝突がおきる、そして残念なことに陽子の中のこれらの素粒子は陽子の持っているエネルギーのうちのほんのちょっぴりしか担っていないことがほとんどだ。

陽子ってのは雪の玉に似ている。向いあって雪の玉どうしを投げ合うと、時には雪の玉どうしでぶつかることもあるかもしれないけど、雪玉どうしが正面衝突であたる事は稀で、ほとんどはかすり衝突だ。芯がないからぶつかってもバラバラにくだけるだけで、すごい事はおこらない。LHC 実験でおこる素粒子同士の衝突はほとんどがこのかすり衝突だ。(実はこんなデータまで到底とっておけないので、衝突データのほとんどははじからすてているのだ。LHC 実験の衝突データの総てを、リアルタイムでとる計算機資源はないので、事前におもしろい衝突だけを選び出して残していのである。)

LHC 実験で研究者が待っているのは高いエネルギーの衝突事象である。例えば陽子の中のパートンがたまたま親粒子の1/20もの(苦笑)エネルギーを持っているとトップクオークという一番重いクオークを作ることができる。(トップクオークの質量は陽子の175倍だ)こういう衝突はLHC ではもう20000回くらいは起こったはずだけど、まだ全部の解析結果は発表されていない。こういう現象は陽子の中に確率的に入っている高いエネルギーのパートンが衝突に参加した時におこる。こういう現象が起こる時の陽子っていうのは「小石が入った雪の玉」のようなものだ。外見は普通の陽子だけど、衝突した時に大きな衝撃ーーエネルギーの移動ーー
がおこる。

トップクオークはCDF や D0といったテバトロンの実験でもすでにかなり調べられている。この実験はビームエネルギーはたかだか1000TeV だが、これでも Top quark を作るには十分だし、何よりもうかなり長く実験をしているからたくさんデータがある。LHC実験で我々が待っているのは、トップクオークよりずっと重い新粒子の発見だ。高いエネルギーのパートン同士の衝突の起こる確率はだいたいエネルギーの 5乗に比例して減っていく(つまり大きめの小石の入った雪の玉が出る確率は低い)ので、たとえばトップクオークの2倍の質量の粒子が作られる確率はトップクオークの1/10 くらいだと思ったらいいだろう。

LHCのような陽子陽子衝突実験というのは、効率はそんなによくないけれども、今年は去年の20倍のデータをとって、どんどん新粒子の探索を行う予定にしている。今日 hep-ph にでたアトラス実験の論文では,去年のデータを用いて600 GeV~700GeV 以下の質量をもった「超重力模型のスカラークオークやグルイーノ(クオークやグルオンの超対称粒子)」は存在しないという結果をだしていた。より多くの衝突実験を行うと高いエネルギーのパートン同士との衝突データもたまり、これを解析すると1 TeV 程度の質量をもつ超対称粒子の存在について、何らかの制限ができると期待されている。これがどういう意味をもつかは順々に説明していきたい

#とりあえず雪がどんどこ降った地域の方はLHC のことを考えながら石のはいっていない雪の玉で平和に雪合戦など楽しんでいただければ、と思う。

##ちょっとかきかえました。
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by mihoko_nojiri | 2011-02-14 21:58 | 物理

重粒子線治療と医療保険

今朝ある保険会社のテレビ広告が目につきました。売りは「先進医療」で、保険の効かない高額の治療に使える保険という内容で、「先進医療」の例としてとして重粒子線治療があがっていました。

重粒子線治療はガンマナイフとかと同じ放射線治療の仲間ですが、炭素などをビームにしたものを使います。重たくて電荷をもった粒子を(高エネルギー実験的には)低速で体にうちこみます。粒子は体の中を減速しながら通り抜けて、ガンの病巣に止まるようにエネルギーが調整されています。体の表面ではたいした反応がおこらないので、あたる場所をコントロールできるので、副作用が少ないという観点から注目されています。大変高額な装置(10億円程度)必要で治療をうけた場合の負担は300万程度のようです。現段階では保険がききません。

この治療で特に期待されているのは体の深いところで手術が難しいガンたとえば、目の奥や脳の下の方といった部分の手術です。通常の方法だ患部にアクセスしようとするとできない部分にビームを打ち込むわけです。

一方で、あらゆるガンに適用して、費用に見合った効果をあげることができる治療法ではありません。粒子を打ち込む治療はガンのサイズが小さい初期の段階であることが重要です。すでにあちこち転移がある場合は、みえている病巣をたたいても、それ以外に小さい病巣が多数あるため、全体的な効果が期待できません。(注: QOL の為に使う場合もあるそうです。)また胃や腸など「動く臓器」でも使えないのです。

医療機関のホームページをみるかぎり、これらのことはきちんと説明されているように思います。しかし、個人レベルではいろいろな事があるようで、たとえば、このサイトのトップのところ(このサイト自体は良い内容だと思います。) で,ある医療関係者の方がいったという「末期でも10人中8人治る」といったものでは全くありません。

医療保険のテレビ広告として、ガンを心配する人たちに、何を語ればいいか、ということは、少し落ち着いて考えるべき問題です。「先進医療」というのはかっこいい表現ですし、実際の治療効果もあるでしょう。しかし、それが使える状況は、一般的なガンの手術や化学療法と違って、かなりピンポイントです。つまりガンにかかる費用の中で、どれを重視するか、という判断は、保険を契約する人が、医療情報をしった上でするべきものだと思います。「高い費用をかければ治るような期待を煽って」高い保険契約に誘導することや「重粒子線治療の効果を過大にいう人」が合体して、何かおかしなことにならないでしょうか?同じお金を保険のどの項目に使うべきか、きちんと説明されているでしょうか?

素粒子研究にも使われる加速器という装置が、「健康」に役立つという、私のように加速器科学の研究施設で研究する人間にとっては大変うれしいことです。国の成長戦略の中に組み込まれる可能性もあるでしょう。保険がリスクテイクの一環として先進医療をカバーしてくれることは、利用者をふやし、コストを下げることに貢献するかもしれません。それだけに、単に「保険商品」としてではなく、正しい知識がひろまることを願います。重粒子線治療については、手術が技術的に難しい部位については、大変有効な治療であると思うので、感心のある方はぜひ勉強されてみるといいと思います。例えばここには治療原理や適用部位についての情報があります。
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by mihoko_nojiri | 2010-11-25 00:02 | 物理

日曜日の夜は白テープでレトロSFの香り

京大物理で3回生の時、物理の実験で「加速器」だの「ビーム」だのを始めてまじかにみた。今や25年以上前のことだ。これは、京大理学部物理学教室の中庭にあったバンデグラフというタイプの加速器で、A1実験の最後に金属の薄い箔に陽子をぶつけて、陽子が原子核にあたって向きが変わるラザフォード散乱という現象を観察する。

加速器といっても陽子のもつエネルギーは たかだか10MeV、 つまり 陽子の速度を光の速度でわると0.01 程度というあかちゃん加速器だ。解析使うコンピューターは穿孔テープ(だたの白い紙テープに穴があいているもの)でプログラムを読み、その読み取り機も手作り風で、コマンドはターミナルではなくてスイッチでいれるというものだった。当時すでに紙テープを作る技術は失われており(笑)、コードを理解している人もすでに去り、くしゃくしゃに折り畳まれた小さいメモの教えるとおりスイッチを上げ下げすると、陽子の運動量を測定する計算システムができあがる。当時すでに大学の計算機センターにいけばラインエディターのターミナルがあり、カード読み取り機は時々教授が使いにくる程度という時代だったが、ラザフォード散乱を再現する程度の学生実験にたいしては、使えるものはいつまでも使うという方針がとられていて、実験室はさながらレトロSF博物館の様相を呈していた(違

そんなあかちゃん加速器でもビームに勝手に近づけるわけではない。ビームラインに立ち入るときには鍵をもって入るきまりで、作業が終わった後総ての鍵がボックスに差し込まれないと加速器は動かない。実験中に部屋に入ると被爆する危険があるからである。昔この加速器のビームを手で遮った(しかもわざと)伝説の人物がいて、事故の後手がものすごく腫れ上がったという話(何度もくりかえすが冗談でもなんでもなく実話である)を実験説明の時に聞かされるというのが慣例になっていた。

高速の陽子が物にあたると何がおこるだろうか。陽子があちこちにぶちあたるとそのはずみで高いエネルギーの光がでる。光はさらにあちこあたって、さらにたくさんの電子や光がでる。この過程が電磁シャワーで、これが人体の中でおこると様々な障害を引きおこす。遺伝子をきずつけるのが一番の問題でガンの引き金になったりする。

さらにエネルギーが高くなると陽子が原子核の中に入って原子核をぶちこわすというさらに荒っぽいことがおこる。原子の種類が変わってしまい、放射性原子も作られて、これがゆっくりと崩壊すると、長く放射能の影響がビームのあたったところに残る。陽子の速度が光の 1/10くらいになると原子の種類によってはこういう反応がおこるのである。

昨日、JAXA の野田さんやサイエンスライターの鹿野さんと、20光年先に新たに発見されたグリーゼ581gという地球型の惑星の話になった。いくだけで100年か、亜高速にでもせんとやってられないな、という話をしているうちに、なんだ、それ宇宙船がビームってことじゃないか、ということに思いいたった。われわれのまわりのものはすべて陽子や中性子でできていて、それが光速の1%まで加速されたら、バンデグラフからくるビームと同じ速度になっている。光の速度の10% までいけば、あたった原子核を分解するレベルである。光の速度の70% までくると陽子と陽子がぶつかって中間子が多数生成されるハドロンシャワーだっておこる。 宇宙のなかをのんびりただよっている分子に突っ込むだけで、高エネルギー衝突反応がおこり、機体が放射化する、、、、う〜ん困ったなぁ。

小飼弾さんに教えていただいたのだが、だが、アーサー C クラークの「遙かなる地球の歌」ではこの問題を宇宙船前に長い氷のキャップをかぶせることで解決することが 提案されているらしい。非常に分厚い物質があれば、粒子はその中に完全に止められる。もちろん全部放射化するが人間の居住区まで放射線が浸透しなければOK ということだろう。 (それでいいのか、という気もしないでもないが。)

光の速度の10%のスピードで目的の星まで200年。その星までついて、帰ってくるとしたら400年。それほど長い間同じ装置を動かした経験をわれわれはもっていない。そして、一人の人間の寿命を遥かに越える飛行時間。唐の時代、玄奘三蔵が中国からインドに教典をとりにいく旅は15年かかり、彼の寿命は約60年だった。人生の25%を過酷な旅に費やすのもいいかもしれない。だから宇宙にいくためには、まず人類の寿命を1000年にのばすことを考えるべきなのだろう。。。。
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by mihoko_nojiri | 2010-10-03 22:29 | 物理

4次元目に住む〜電子顕微鏡とLHC

どこかに集中講義にいうと、素粒子の専門家むけじゃない話もしてください、といわれる。そして,そういう時はすごく困る。素粒子の研究者がLHC に向けてどういう素粒子の模型(見つかってない素粒子にどういうものがあって、そういうダイナミクスを持ってるかという予想)を研究してるか, っていう話をしないといけないからだ。

素粒子の模型の中には「空間は実は3次元じゃなくて4次元(あるいは9次元とか10次元とか)でぇ」、という
ものがあって、多くの人がそれ研究している。分野全体の話をするときには当然こういう模型の話もしないといけないわけだけど、気まじめな物性物理の研究者は「底知れない不信感」をいだいたりするようで、時には「それは物理なんですか、SF なんですか」と聞いてくる正直な人もいる。

このような状況を打開すべく編み出した手法は、「今知られている素粒子の性質について我々がきちんと測定していて、測定と理論的な予言がぴったいあっている」こと、を始めにきちんと触れる、ということだ。素粒子模型というのは実験データと矛盾していてはいけないし、すべての素粒子のプロセスをきちんと説明できるものでなければならない。そして新しい理論を提案するときは、今のデータを説明できるだけじゃなくて、将来の実験できちんと「検証」できるものがよい。それが我々のゲームのルールになっている。

じゃあ、空間が実は4次元、という我々の日常の感覚とまるで違うことが、どうして今われわれの持っている実験データと矛盾しないのだろうか?

これには実は量子力学が関係している。

ものの大きさを計ろうとするときには、光や物質といった粒子をあてないといけない。光であれば、その波長が調べられる空間の最小の大きさを決めている。波長は物差しの一番小さな目盛りで、それよりも短い距離の情報は、平均化されてしまうのだ。例えば、可視光の波長でみる光学顕微鏡では、どんなに短くても O(100) nm ( ~10^-4 mm)をみるのが限界で、それより短い距離はどんなに立派なレンズを使ってもみることはできない。つまり4次元目の空間が存在するかどうか可視光で計ろうと思ったら、 4次元目の大きさは100nm より大きくないとわからない、ということになる。

光だけではなく、我々を構成している電子や陽子といった粒子も、すべて波としての性質も同時にもっている。これが量子力学のいうところだ。粒子が波であるということは、今ではとてもきれいな実験が実証できるようになった。たとえばこのリンク先では、電子を2つのスリットに向けて発射すると右のスリットを通ったものと左のスリットを通った電子が波として干渉してできる縞が表れるのを動画でみることができる。 (http://www.hitachi.co.jp/rd/research/em/doubleslit.html) 電子は一個一個うちだされ、画面の上にあらわれる。一個一個の粒子は点だ。でも、電子をなんども打ち出していくと波が干渉したことによる縞が浮かびあがってくる。

電子も波だという性質を利用するのが電子顕微鏡。電子顕微鏡は大掛かりな装置だけど、そのてっぺんには電子を加速する加速器がついていて、電子を可視光よりも高いエネルギーに加速して、見たいものにぶつける。「波長はエネルギーの逆数に比例する」という量子力学の性質があって、粒子を高いエネルギーに加速してぶつければ、空間のより細かい構造が見えてくる。最新の電子顕微鏡は100 keV=10^5 eV くらいのエネルギーをもった電子を使っている。(可視光はだいたい 1eV のエネルギーをもっている。)

LHC 実験では陽子を 7TeV= 7x10^12eV という高いエネルギーまで加速する. 可視光の波長の1/10^12 の空間構造が見える装置、ということになる。もし4次元目の空間の大きさがそれよりも大きければ、加速された陽子の中にはいっているクオークやグルオンが4次元目の空間に入り込んで、その空間に特異的な反応をする。LHC 実験はわれわれが感知することができない空間構造の探索をする装置としても期待されているのだ。
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by mihoko_nojiri | 2010-07-24 00:45 | 物理

physics at LHC
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