油断するなここは戦場だ

走り出す人 (ガイガーカウンター製作ワークショップat円盤)

しばらく前に筑波大学の「バイオ e-カフェ」で、「デマを信じる心理について考える」という企画の講師をした。

グループ別にテーブルディスカッションをしていただいたあとで、自分がどんなデマを信じたか、という発表をしている最中に一人の方が、「今回の震災は人工的に引き起こされた地震だ」というデマを信じたという話をされた。これには驚いて、どうしてですか、と聞くと「津波がくるのをテレビでずっとみていて、あり得ないことが起こったと思った、そしてこれだけあり得ないことが起こるのなら、何が起こっても不思議ではないような気がした」、とおっしゃったのである。

会場にいた人に「津波画像をテレビでみたか」と聞くとほとんどの人が見たといい、感想を聞くと「何かしなければいけないと思った」「すごく落ち込んだ」「不安になった」「とても興奮した」。。と様々ながら、みな強い影響を受けたことが感じられた。ホワイトボードの中心に、「津波という事象」を置き、それを中心にして人の気持ちを「事象を中心とする動線」として配置すると、震災をきっかけにばらばらになって飛び散る人間社会が見えるような気がした。思考の中心が大きく動くと、大きな運動が生じ、別の落ち着き先が見つかるまで動き続けることになる。その動線を意識することで、何かの「再配置」のきっかけが掴めるのではないか、と思ったりしたのである。

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自分自身も、自宅をと研究所と往復するだけの研究者生活から、放射線について考えたり、ライブスペースにいって講演したり、漫画のネタになったりと、どこに向かっているのか良くわからない生活になってしまった事もあり、震災をきっかけに走り出した人には興味がある。

宇都宮さんも震災をきっかけにしてある方向に「走っている」方だ。本業は音楽アーティストだが、8月からガイガーカウンター製作ワークショップを大阪、東京で主催されている。(http://utsunomia.com/y.utsunomia/japanese.html ) 6月に素晴らしいガイガー管解体画像がネット上に流れていたので、パチって 611GCM の修正スライドに掲載したのだが、これが宇都宮さんのサイトの画像であった。慌てたフォロワーの方に「これあの宇都宮さんですよ!(汗)」というだめ押しとともに元サイトを教えていただいた。それをきっかけに宇都宮さんと幾度かやりとりがあり、先週ついに彼のワークショップに潜りこんで、自作ガイガーを一台手にいれることと
なったのである。

薄暗い「円盤」というスペースで--こういうのをどういう場所というのだろうか、壁一面に知らないアーティストのCD が並べられている--ガイガーを組むのがイベントの前半だ。分解された「写ルンです」の基盤からガイガーに電圧が供給され、万歩計がカウンターに化け、イヤホンからカリカリ音が出たりして、何かの魔法なのではないかという気すらすす。もたもたと「人生最初のハンダ付け」をして、鈍く金属光沢のガイガーをセットしてスイッチを入れると、カウンターが放射線が管に入った音をポツリポツリと数字を拾い始める。 SBM 20 という RADEX や SOEKS 01M に入っているガイガー管である。

ワークショップメインは自作したガイガーを使った測定講習である。宇都宮さんは「定カウント測定」をすすめている。ガイガーカウンターは測定器が鳴った回数を計数する装置であるが、定カウント測定ではあらかじめ決めたカウント値に達するまでに経過した時間を記録するのである。

この計測方法を勧めるのには理由がある。

SBM20 ではガイガー管の計数は1μSv/h が 100カウント/cpm 程度である。 (cpm は一分あたりのカウント数の意味) 0.1 μSv/h ではたったの10カウントだ。。この値は平均値で、一回一回の測定値はふらつく、このふらつきはカウント数の平方根程度である。 10000カウントであれば、100, つまり統計的な誤差は 1% であり100 であれば 10%, 10 の時は(ちょっと不正確なんだけど)3くらいだ。

ガイガーカウンターは普通一定時間はかった結果を表示するように設計されている。つまり一分計測であれば 100cpm で1.00μSv/h と表示する。しかし、本当の平均値はこの表示とは異なっている。 1μSv と表示されたときに、本当の平均値の値は0.9~1.1 の間にある確率が 68% と、大変おおらかな広がりをもつのである。これが、10 cpm ならどうだろう?平均が 0.1 である確率がもっとも高いが、実は 0.07 でも 0.13 でも全然不思議はない。これが、測るたびに値が毎回2倍くらい変わる、まだ福島第一から放射線が出ているのかといった、ガイガーカウンターをもっている人にありがちな誤解の原因になっている。

宇都宮さんの勧めるガイガーカウンターの使い方はこうだ。ストップウオッチを稼働させる時の積算カウント数を記録しておき、それ以後のカウント数がある値を越えたときにストップウオッチを止める。そしてcpm を出すために割り算をする。例えば 30分はかって 1000 カウント増えたとすると、期待されるふらつきは32 くらい、つまり誤差は 3% になる。一分あたりのカウント数は1000/30=33.3 誤差は 1.1 だ。このくらいカウント数があれば、誤差は気にならないレベルといってもいいだろう。

今市場にあるガイガーカウンターに長時間平均の機能があるのものはほとんどない。同じ SBM 20 でできているガイガーカウンターはRadex で2分程度、 SOEKS に至っては20秒積分だが、それぞれ 0.2Sv/h の読みの時には 40, 7 などといったカウント数でSv/h の数字をだしているということを意識して使うべきだろう。このような測定器で独立の測定を何回か繰り返して平均を取るのは、宇都宮さんの測定方法でいうとストップウオッチを何度か止めて途中の数を確認するのに対応する。測定の2桁め数字も気にするのであれば最低でも100カウントに対応する時間 、つまり 100 cpm ÷(平均のμSv) 分程度、2桁めの数字の変動が気になるのであれば、さらにその3倍程度の総カウントをだす測定時間が必要だろう。

これだけのことをいうためだけであれば、ガイガーカウンターの自作は必要ないと思う人もいるかもしれない。実際、規程時間内に製作を終えるための材料の吟味、よく整備された製作マニュアルをみると、ここ数ヶ月の宇都宮さんの時間がほとんどこのワークショップのために注がれているのが分かる。自作にこだわる背景に、「自作のプロセスから『放射線そのもの』に向かう気持ちが養なえる」というお気持ちがあるのだと思う。与えられた装置のボタンを押してその数字を信じるだけでは、気持ちは「数字の悪魔」に振り回される。しかし、測ることは始まりであって、本当に大事なことはその数字から何を判断してどうするか、という動線にあるのだと思う。

放射線の健康への影響、内部被曝の捉え方については、私と宇都宮さんではかなりのずれがあった。残念ながらワークッショップではそのあたりを十分話す時間がなかったので、またお話をする機会があることを願っている。
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by mihoko_nojiri | 2011-08-30 19:29

physics at LHC
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