油断するなここは戦場だ

壊れる、、、壊れない、、、

ブログの反響をみているなかに、「ミューオン壊れるってどういうこと、なくなっちゃうの」 というのがあった。
(こういうのを at つけて飛ばしていただけるとうれしいのだけど)

19世紀というのは「化学の世紀」でその中で培われた概念の一つが、「物質は保存する」「エネルギーは保存している」、というものなんだと思う。日本人は高校で、「祇園精舎の鐘の声」だの「行く川の流れは絶えずして」だの無情感をたたきこまれるけど、ミクロにみれば、「こわれちゃた、なくなっちゃった」からといて「それを構成している原子」がが消え去ったわけじゃない。単に配置が変わっただけだ。なにかが起こったあとで、量がかわらないことを僕らの業界では「保存する」という。

だからミューオンが見つかって、それが、崩壊して電子に変わった、しかもどうも運動量が保存してないっぽい、とわかった時には、みんな驚いた。ミューオンが宇宙線のなかから発見されたのは1936年のことだ。(中性子はこれ以前に発見されてるし、中性子の崩壊もしられてたけど分野の人は目をつぶっていてほしい。ほら、中性子は素粒子じゃないし。)

1935年に湯川秀樹が中間子論を発表していて、パイ中間子を予言していた。宇宙線の中にみつかった粒子の質量は、予言されていたパイ中間子の質量程度(陽子の質量の1/10) だったので、中間子に違いないと思ったが、よくよく見ると性質がおかしい。中間子論は「軽い中間子が陽子の間を飛び回って原子核を一つのまとまりにしている」という理論だけど、宇宙線の中の粒子はほとんど原子核と反応しないのだ。一方で宇宙線のなかからはすごい量が見つかるので、これは宇宙からとんでくる陽子が大気とかなり強く反応して作られたことは間違いない。見つかったものが、まるっきり期待はずれだったので、 Rabi っていう研究者が Who odered that?(「それ誰が注文したの?」)って言ったという話が残っている。(http://en.wikipedia.org/wiki/Carl_D._Anderson)

理論計算と実際に観測される結果が違うわけだけど、当時は素粒子反応を解析する理論(場の理論)はまだしっかりしていなかった。「場の理論」を使って素粒子反応を計算するといたるとこに発散がでて、どうしたらいいかわからない。湯川は素粒子が「点」じゃなくて「広がっている」ものであれば発散の問題は解決されるという「素領域」という理論を考えていて、宇宙線でみつかった粒子の問題も、場の理論の困難が解決されれば同時に解決されるのではないかと期待していた。(この理論はついに完成しなかった。)朝永は広がった粒子という立場はとらなかったが、やはり場の理論の問題に手がかりをもとめていた。一方で坂田は、「二中間子論」つまり湯川のパイ中間子が、宇宙線の中に入っているミューオンに壊れる理論を提案していた。これなら、湯川の理論で予想される相互作用と宇宙線の中に観測される粒子の性質の違いが説明できる。なんの話かよくわからないという人、陽子の衝突でむちゃ強いスーパーマンがつくられるんだけど、すぐに衣装を脱いで普通のおじさんに変わってしまうところを想像すればよろしい。二人の人は全く違う性質をもっているけど、服を脱いでも一人は一人だ。

この問題がようやく解決されたのは、1947年(?)に本当のパイ中間子が発見された時だ。坂田が正しかった。パイ中間子はミューオンとニュートリノに壊れる。ミューオンは電子と2つのニュートリノ(つまり3つの粒子)に壊れる。パイ中間子は陽子と強く相互作用するけど、ミューオンはほとんどしない。反応の前後で運動量は保存する。でも、簡単に観測できるのは、電荷をもつ粒子だけなので、ミューオンの崩壊をみると、ミューオンが突然電子に変わってエネルギーがなくなったようにみえる。

重い素粒子がより軽い素粒子に壊れるのは普通の現象だ。素粒子物理の研究では素粒子作ったあとで、その崩壊のパターンを調べることが多い。たとえば、KEK のB factory 実験では bottom quark という素粒子がどういう粒子に崩壊するか調べている。一方で、壊れない粒子=安定粒子(電子と陽電子、原子核の中に安定して存在する陽子や中性子など)については自然の中にはこれらを安定にしている仕組みがある。電子が壊れないのは、電子が電荷をもつ一番軽い粒子だからだ。素粒子の反応では電荷が反応の前後で保存するから、一番軽い電子はもう壊れる先がない。陽子の安定性はバリオン数という別の量の保存で理解できる。

それ以外の粒子は「崩壊」する。宇宙が始まったときにたくさん素粒子が熱的に作られたはずなんだけど、全部崩壊していなくなった、われわれは日常的な体験から粒子は安定なものばかりだと錯覚している。止まっているミューオンの寿命は 2.2x 10^-6秒。これは崩壊する素粒子の中では格段に寿命が長いほうなんだよ。

もう一つ安定な粒子のことを忘れていた。それは暗黒物質を作っている素粒子だ。これは宇宙ができたからいままで、ずっと宇宙に存在していると考えられるので、電子や陽子のように、安定な素粒子の仲間に数えられる。なんで安定なのか、その仕組みについては、実際にその存在を確認して、性質をあきらかにしないとわからない。いろいろなアイディアはあるんだけどね。
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by mihoko_nojiri | 2010-07-16 17:13 | 物理

physics at LHC
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